【ソブリン格付けとは】格下げの影響と各国の最新格付け一覧｜投資家の正しい対応とは？

米国が格下げされた衝撃とその意味

2025年5月、米国の長期信用格付け（ソブリン格付け）が、ムーディーズによって最上位の「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げられました。

これにより、米国は主要な格付け会社3社（S&P、フィッチ、ムーディーズ）のすべてにおいて、AAA格付けを失ったことになります。

※過去の格下げ履歴

• 2011年：S&Pが米国をAAA → AA+に格下げ

• 2023年：フィッチが米国をAAA → AAに格下げ

• 2025年：ムーディーズが米国をAAA → Aa1に格下げ

このニュースが注目された背景には、「世界最大の経済大国」「基軸通貨ドルを発行する国家」である米国の信用力に初めて明確な“警告”が出されたことにあります。

格下げ発表後、市場反応が見られました。

• 米国債の金利（利回り）が急上昇し、30年債は5%を突破

• S&P500などの米国株式市場は一時的に下落

• ドル円相場も不安定な動きを見せ、短期的な資金の逃避が起きた

その一方で、冷静な見方をする投資家も多く、
「これは一時的な揺さぶりに過ぎない」「長期では米国の地位は揺るがない」という声も少なくありません。

では実際、ソブリン格付けとは何なのか、なぜ重要なのか、
私たち個人投資家は、どのように対応すれば良いのか。

この記事では、以下の流れで解説していきます。

1. ソブリン格付けの仕組み

2. どのように評価しているのか

3. 各国の格付け一覧

4. 格下げによって起きる影響

5. 投資家が取るべき対応

ソブリン格付けとは？

「ソブリン格付け（Sovereign Credit Rating）」とは、国家（政府）が発行する債券や借入金に対する返済能力＝信用力を、専門機関が評価したものです。

企業の信用格付けと同じように、国にも「この国は借金をきちんと返せそうか？」という信用スコアがつけられ、それが国際的な投資判断の材料になります。

ソブリン格付けは、なぜ重要なのか？

ソブリン格付けは、以下の目的で使われます。

• 国債の信用度を可視化する
  　→ 投資家にとって、その国の債券を「安心して保有できるか」の判断材料となる。

• 借入コスト（利回り）に影響する
  　→ 格付けが高い国は、信用度が高いため、低金利で資金を調達できる。逆に、格下げされると信用度が下がり、利回りが上昇（調達コストが増加）する。

• 国際機関・金融機関の投資制限に関わる
  　→ 一定の格付けを下回る国の債券は、「投資不適格」とされる場合がある（＝投資対象外となる）。

つまり、ソブリン格付けは国家の経済的信頼度を表す“国の信用スコア”であり、そのスコアを基に数十兆円規模の資金が動いているのです。

格付けの等級（ムーディーズの場合）

格付けは、アルファベットを用いて段階的に評価されます。代表的な格付け機関「ムーディーズ」の格付けは以下の体系です。

ただし、“絶対的な評価”ではない

格付けはあくまで「相対的な評価」かつ「格付け会社の見解」にすぎないため、過去には以下のようなケースもありました。

• 高い格付けが付いたまま財政破綻した国（アルゼンチン、ギリシャなど）

• 3社の評価が異なる国（同じ国でもAAとBBBに分かれることも）

つまり、格付けは「完全な予測」ではなく、各社の信頼度の評価と警告と捉えるのが現実的です。

格付けはどうやって決まる？

ソブリン格付けは、ただの印象や噂で決まるものではありません。
国際的な格付け会社が、明確な評価基準に基づいて複数の指標を総合的に分析し、客観的に評価しています。

主な格付け会社は3社

格付けの基準は？

格付け機関は、財務・経済・政治の複合的な指標をもとに評価をします。

格付けはどうやって決定される？

格付けは次のステップで決まります。

1. 各国政府や市場の公開データを収集・分析

2. 財政・経済・政治の各セクションでスコアリング

3. 格付け委員会で最終評価を決定

4. 公開レポートとして発表（必要に応じて「見通し」も添える）

公開レポートに添えられる見通しの表現も重要なポイントになります。見通しは以下の3つの方向性を示します。

• ポジティブ（改善方向）

• ネガティブ（悪化懸念）

• ステーブル（当面維持）

見通しが「ネガティブ」に変更されると、その後実際の格下げが行われる可能性が高まることが多く、マーケットも注意を払います。

同じ国でも評価が異なることがある理由

なぜ格付け会社ごとに評価が違うのか？ その理由は2つあります。

• 評価項目の重視するウェイトが異なる
  　例：S&Pは「財政健全性」を重視、ムーディーズは「経済全体の安定性」を重視

• 政治リスクや政策の読み方に違いがある
  　例：短期的な政治混乱をリスクとみなすか、制度の安定性で評価するか

したがって、「どの機関の格付けを参考にするか」も投資判断において意識する必要があります。

2025年最新版 各国のソブリン格付け一覧

ソブリン格付けは、国ごとの経済力・財政健全性・政治安定性などを反映した“国の信用力の偏差値”とも言えるものです。
ここでは、ムーディーズ（Moody’s）による2025年時点の主要国格付けを一覧で整理し、それぞれの特徴を見ていきます。

主要国のソブリン格付け一覧（ムーディーズ基準）

米国の格付け推移

格付けは“通貨・国債・投資資金の信頼度”に直結する

高格付けの国は、

• 投資家からの信頼が厚く、資金調達が容易

• 自国通貨の安定性も高い（為替防衛力がある）

• 世界の年金・保険資金などが流れやすい

逆に格付けが低い国では、

• 債券利回りを高くしないと資金が集まらない

• デフォルトの可能性が意識され、信用コストが上昇

• 自国通貨が急落するなど、危機の引き金にもなりうる

投資家視点での格付けの活用法

• 債券型ETF（AGG、BNDなど）に投資する際は、格付け構成比率に注目する

• 国別ETF（例：VWO・EWJ・FXIなど）も、その国の格付けをチェックする

• 新興国や高利回り国に投資する場合、高リターン＝高リスクという格付け上の裏付けがあるかどうか確認する

格付けが下がると何が起こる？

ソブリン格付けが下がると、金融市場は敏感に反応します。
格付けは「信用の見える化」であるため、“信用が揺らいだ”というメッセージが伝わると、各アセットに連鎖的な動きが起こります。

① 債券市場：利回り上昇と価格下落

格付けが下がると、まず影響を受けるのはその国の国債です。

• 信用力が下がった＝貸し倒れリスクが上がったと見なされる

→ 債券価格は下落し、利回りは上昇する（リスクに見合ったリターンを要求）

実際、2025年5月の米国格下げでは、30年債利回りが5%を突破。
政府の借入コストが上昇することは、今後の財政負担をさらに悪化させる可能性があります。

② 株式市場：リスクオフの圧力

国債の信用が落ちるということは、その国の財政や金融政策が不安定化するリスクがあるということです。
そのため、株式市場でも以下のような反応が見られます。

• 金利上昇 → 企業の資金調達コストが上昇

• 景気減速懸念 → 株価にマイナス影響

• 機関投資家がリスク資産を削減（ポジション調整）

実際、米国株（S&P500）も格下げ直後に一時的な下落がありました。

③ 為替市場：通貨の信頼性が揺らぐ

格付けはその国の通貨の“裏付け”にも関係します。
格下げにより投資家が「この国の通貨はリスクがある」と判断すれば、為替相場に大きな影響が出る可能性があります。

ただし、今回のようにドルが“基軸通貨”である場合、動きは複雑です。

• 「信用不安」でドルが売られるケース

• 一方で「逃避先がなく、結局ドルが売られない」ケース

→ 実際のドル円は、短期的な上下動を伴いながらも方向感に乏しい展開となりました。

④ 消費・ローン・企業経営

国債金利の上昇は、最終的に個人や企業の借入金利上昇につながります。

• 住宅ローン金利が上昇 → 住宅購入意欲が低下する

• 自動車ローン・カードローンが高コストになる

• 企業の設備投資意欲も鈍る → 経済成長が減速する

つまり、格下げは金融市場だけでなく、実体経済にも“じわじわ効いてくる”リスク要因なのです。

2025年米国格下げの反応

投資家はどう行動すべきか？信用リスクへの備え方

ソブリン格付けの格下げは、一部の投資家にとってはショックに映ります。
しかし、過剰に恐れる必要はありません。重要なのは、「格下げの意味を正しく理解し、戦略的に備えること」です。

① 感情的に動かず、事実を冷静に見る

まず最も大切なのは、“格下げ＝パニック売り”とならないことです。
米国のように経済規模・通貨・金融市場の信頼性が極めて高い国では、格下げされても即座に資本が流出はしません。

実際、過去の米国格下げ（2011年S&P、2023年フィッチ）でも、市場は短期的に動揺しただけで長期的には回復しました。

「格下げは信頼低下のサインではあるが、“終わり”を意味するわけではない」

② ポートフォリオの金利感応度を見直す

格付けが下がった国では、国債金利の上昇＝市場金利の上昇が起きやすくなります。
このため、資産配分の見直しが有効です。

③ 通貨リスクを分散する

特定の通貨や国家に過度に依存することは、信用リスクと表裏一体です。
ドル一辺倒のポートフォリオであれば、以下の対応も可能です。

• 為替ヘッジ付き商品（為替変動リスクを軽減）

• 複数通貨建て資産（円・ユーロ・豪ドルなど）をバランスよく保有

• 国際分散ETF（VTなど）の活用

長期運用を前提とするNISA・iDeCoなどでも、外貨分散の視点を持つことで資産の安定性が向上します。

④ “見通し変更”にも注意を払う

格下げが発表される前には、往々にして「見通し：ネガティブ」という途中の段階があります。
これは“今は維持しているが、次の判断では下げる可能性あり”という黄色信号です。

• 投資している国の見通しがネガティブになったら、一度評価を見直す

• 格付け変更の発表タイミングに注意し、急変に備える

⑤ 信用リスクに強い投資戦略を常に意識する

格下げのニュースが出たときに慌てないためには、日頃から戦略を意識しておくことが重要です。