再現性で選ぶ長期投資|ユニバース→定量→定性→撤退ルールまで

目次

導入:この記事でできること

「長期投資向けの“再現性ある”スクリーニング型」を、今日から使える実務フローに落とし込みます。

  1. 投資ユニバースの決め方

  2. 定量スクリーニング

  3. 定性チェック

  4. 候補の絞り込み

  5. 買い方・見直し

この順で、手戻りなく進められるように設計しました。余計な理屈より「明日も続けられる型」を重視します。

対象読者とゴール

  • 対象読者:インデックス積立は継続しつつ、個別株/ETFでも長期で超過リターンを狙いたい中級者。忙しくても四半期ごとに見直せる運用を求める人。

  • ゴール:あなた専用の「初期条件」「評価軸」「スコアシート」をそのまま持ち帰り、10銘柄前後の監視リストを作れる状態にすること。

本記事の前提(長期=3〜5年以上・積立前提)

  • 投資期間:3〜5年以上を基準に、短期イベントはノイズ扱い。

  • 資金配分:コアはインデックス(NISA等)を継続、サテライト枠で個別/ETFを積み上げる。

  • 売買ルール:「仮説が壊れたら撤退」を明文化。上がったから売る/下がったから買う、はしない。

  • レビュー頻度:基本は四半期決算ごと。緊急の悪材料のみ臨時点検。

今日使う評価軸の全体像

定量と定性を半々で評価し、スコア化します(重みは目安、後で調整可)。

  • 収益性(25%):営業利益率、ROE、ROIC。過去3年の水準と安定度。

  • 成長性(20%):売上・営業益CAGR、ガイダンス達成力(過去実績)。

  • 財務健全性(15%):自己資本比率、有利子負債、インタレストカバレッジ。

  • バリュエーション(15%):PER/PBR/EV/EBITDAの整合。割安“風”ではなく文脈で判断。

  • 競争優位(15%):参入障壁、スイッチングコスト、ネットワーク効果、価格決定力。

  • 資本配分(10%):成長投資>自社買い>配当のバランス。IRの一貫性。

この枠組みで「広く拾い、早く捨てる」ふるい落としを行い、最後にA/B/Cリストへ仕分けます。次章から、手順どおりに進めていきましょう。

ステップ1:投資ユニバースを決める

「まず何を母集団にするか」で、その後の精度と手間がほぼ決まります。広げすぎず、でも偏りすぎない範囲を先に固定しましょう。

国・市場・時価総額レンジ

  • 国の決め方

    • 生活通貨・情報の取りやすさ・税制を基準に、まずは日本 or 米国のどちらか1国から開始(両方やると管理が倍増)。

  • 市場の絞り方(例)

    • 日本:東証プライム/スタンダード中心。グロースは情報が追える範囲で追加。

    • 米国:NYSE/NASDAQの主要指数採用銘柄(S&P500/Russell 1000など)を基本に。

  • 時価総額レンジの目安

    • 日本:300億〜2兆円(あまり小さすぎると流動性難/大きすぎると成長鈍化の傾向)

    • 米国:$0.5B〜$50B(Small〜Mid中心で、Largeはテーマにより一部)

  • 流動性の基準(“売買のしやすさ”)

    • 日本:3カ月平均売買代金 ≥ 1億円

    • 米国:3カ月平均出来高 × 株価 ≥ $1M

    • できればフリーフロート時価総額も確認(大株主で実質浮動株が薄い銘柄は外す)

まずは「国1つ × 市場1〜2つ × 時価総額レンジ × 流動性」の4点で母集団を固定。以降のふるい落としが効率化します。

除外条件(低流動性、監理・整理、極端な赤字など)

“触らないライン”を先に決めておくと、迷いが減ります。以下は実務で機能しやすい基準例です。

  • 売買のしづらさ

    • 株価が200円未満(日本)/$5未満(米国)の低位株

    • 板が薄い(スプレッドが常時大きい・約定に時間がかかる)

  • 上場区分・注意喚起

    • 日本の監理・整理銘柄、上場廃止懸念の公式開示があるものは除外

    • 継続企業の前提に重要な疑義(監査注記/IR記載)がある銘柄は除外

  • 財務の赤信号

    • 直近2〜3期連続の営業赤字かつ改善計画の具体性が乏しい

    • 債務超過または**希薄化(大型SO/CB乱発)**が常態化

    • インタレスト・カバレッジ**<1倍**が継続

  • 情報の非対称性が大きいケース

    • 海外小型・新興で英語/日本語の一次情報が乏しい

    • 訴訟・規制リスクが突出(FDA/省庁承認待ち一点張り など)

  • テーマ依存・持続性が弱い

    • コモディティ高にだけ依存、一過性特需のみ、単一顧客依存度が極端 など


コピペOK:初期フィルタ例(雛形)

  • 日本株:東証プライム/スタンダード、時価総額300億〜2兆円、3カ月平均売買代金**≥1億円**、株価**≥200円**、監理・整理除外、営業赤字連続2期で除外、債務超過除外

  • 米国株:NYSE/NASDAQ、時価総額**$0.5B〜$50B**、3カ月平均(出来高×株価)≥$1M、株価**≥$5**、Going Concern注記除外、連続営業赤字2期で除外

ここまでで“母集団”が決まります。次章の定量スクリーニングは、この母集団に一括でふるいをかける工程です。

ステップ2:一次情報の取りに行き方

「まず一次情報」。スクリーニングの精度はここで決まります。ニュースや二次記事は補助。決算書とIR資料だけで判断できる体力をつけましょう。

必読ドキュメント(有報・決算短信・決算説明会資料)

  • 有価証券報告書(有報)
    年1回の“全身検査”。会計方針、セグメント詳細、KPI、リスク、ガバナンスまで網羅。

    • 抜き出すもの:

      • 事業セグメントの定義とKPI

      • 収益認識の方針(返品・ポイント・長期契約)

      • 重要なリスクと対応(規制・為替・サプライ)

      • 役員構成と持株、株主還元方針

  • 決算短信(四半期)
    最新の“血圧測定”。YoY/QoQ、通期見通しの修正、セグメントの変化に注目。

    • 抜き出すもの:

      • 売上・営業益・経常益・純利益のYoY/QoQ

      • 通期ガイダンスの上方/下方修正理由

      • セグメント別の増減要因(価格×数量×為替)

      • 受注・バックログの推移(開示があれば)

  • 決算説明会資料/スクリプト/Q&A
    経営者の“考え”が出る場所。価格決定力需要の質を言葉の温度で読む。

    • 抜き出すもの:

      • 価格改定の有無と継続性

      • 原価・粗利率の見通し(コスト押し上げ要因の時限性)

      • 重点投資領域(人員・CAPEX・M&A)

      • 質疑応答での“弱点認識”(競合・チャーン・規制)

探し方のコツ:IRページの「決算・説明会」コーナー→当期と直前三期分を一気にDL。EDINET/TDnetでも検索可。

どこを読むか(サマリ→セグメント→リスク→キャッシュフロー)

5〜10分の高速ルーチンで“仮説”を立て、深掘りが必要かを判定します。

  1. サマリ(短信・説明会の冒頭)

    • 1枚で要点:通期見通しの上方/据置/下方、その理由(価格/数量/為替/コスト)

    • アラート化:前期比で粗利率・営業利益率が悪化なら要深掘り

  2. セグメント

    • 単なる増減ではなく分解(価格×数量×ミックス×為替)

    • KPI(ARPU・MAU・稼働率・同店売上・チャーン・LTV/CAC 等)の方向性と一貫性

    • 依存度:上位顧客・上位製品の売上比率、地域偏在

  3. リスク

    • 有報の列挙を“実体化”する:どの指標が動いたら仮説が壊れるかを言語化

    • 規制・価格競争・サプライ制約・為替の反証条件をメモ

    • 監査注記・継続企業の前提に関する記載がないかを確認

  4. キャッシュフロー(CF)

    • 営業CFが利益と歩調を合わせて増えているか

    • 在庫・売掛金・買掛金の運転資本の逆回転が起きていないか

    • 投資CF(CAPEX/M&A)と財務CF(自己株買い・配当)の資本配分の整合


チェックリスト

  • ☐ ガイダンス:上振れ/下振れの根拠は数量?価格?コスト?為替?

  • ☐ 粗利率:構造的か一時的か。改善/悪化の持続性は?

  • ☐ セグメント:KPIが結果→原因の順で説明されているか

  • ☐ リスク:数値化した反証条件を1行で(例:解約率>3%で仮説撤回)

  • ☐ CF:営業CFと利益の乖離、在庫の積み上がり、過度な希薄化の兆候なし

  • ☐ 資本配分:成長投資→超過資金で自己株買い→残余で配当の優先順位が明確

この型どおりに同じ場所を・同じ順番で読むと、銘柄間比較がラクになります。次章は、この一次情報をもとに定量スクリーニングへ進みます。

ステップ3:定量スクリーニング(第一次ふるい)

一次情報から抜いた数字を同一基準で機械的にふるいます。ここでは「落とすための基準」を明確にし、感情を入れません。

収益性:営業利益率/ROE/ROICのしきい値

  • 営業利益率(OPM)

    • 目安:製造業10%超/ソフト・プラットフォーム20%超/小売5%超

    • 悪化トレンドが2四半期連続なら要注意(構造要因の可能性)

  • ROE

    • 目安:12%以上(資本効率の最低ライン)。一時的な自己株買いでの“嵩上げ”は注釈。

  • ROIC(税後)

    • 目安:WACC+3pt以上(資本コスト超過の価値創造)

    • ROIC>ROEが長期で続く企業はレバレッジ依存が低く質が高い。

メモ:セクター差を加味。公益・通信はOPM/ROEが低めでも安定性+配当で次工程へ残す余地。

成長性:売上・営業益CAGR、ガイダンスの整合

  • 売上CAGR(3年)

    • 目安:+8〜10%以上。成熟業種は**+5%以上**で合格圏。

  • 営業利益CAGR(3年)

    • 目安:+12%以上(売上成長を上回るのが理想)

  • ガイダンス整合

    • 過去4期中3期以上で達成 or 上振れを合格。

    • 達成未達の理由が外部要因→内部改善に繋がったかをチェック。

財務健全性:自己資本比率/有利子負債/インタレストカバレッジ

  • 自己資本比率

    • 目安:30%以上(資産重い業種は25%でも可)

  • ネット有利子負債/EBITDA

    • 目安:2.0倍以下(守備的)。M&A期は3.0倍以下&返済計画が明確なら可。

  • インタレスト・カバレッジ(EBIT/利息)

    • 目安:5倍以上<1倍は原則除外(構造リスク)。

  • 希薄化リスク

    • 増資・CB・SOの継続発行は減点。発行目的と投資回収見通しを確認。

バリュエーション:PER/PBR/EV/EBITDAの使い分け

  • PER(利益ベース)

    • 成長株:PEG≒1前後を許容ライン(PER/利益成長率)。

    • 景気敏感:ピーク付近は低PERでも割高に見えるため注意(循環調整必須)。

  • PBR(資産・金融・成熟業種)

    • 目安:ROE>資本コストを満たすかが先。PBR1倍割れは再評価余地だが、収益性回復の根拠が条件。

  • EV/EBITDA(資本構成に中立)

    • 目安:8〜12倍を中立帯に。プラットフォーム/高継続収益は上振れ容認。

    • 企業間比較は同セクター・同マージン帯で行う。

  • フリーCF利回り(FCF/時価総額)

    • 目安:5%超で魅力度あり。成長投資期は将来FCFの伸びで補完。


コピペOK:第一次フィルタ(数値版)

  • 収益性:OPM ≥10%(小売≥5%)、ROE ≥12%、ROIC ≥WACC+3pt

  • 成長性:売上CAGR(3y) ≥8%、営利CAGR(3y) ≥12%、ガイダンス達成 ≥3/4期

  • 健全性:自己資本比率 ≥30%、Net Debt/EBITDA ≤2.0x、IC Ratio ≥5x

  • バリュエ:EV/EBITDA 8–12x(業種補正)、PEG ≈1、FCF利回り ≥5%

第一次で**“足切り”を徹底し、残った銘柄のみ次章の定性チェック(第二次ふるい)**へ進めます。

ステップ4:定性チェック(第二次ふるい)

第一次で数値は合格。でも“何で稼ぎ、どこが強いか”が曖昧なら長期では持てません。ここでは勝ち筋の質を見抜き、A/B/Cに振り分けます。

競争優位(参入障壁・スイッチングコスト・ネットワーク効果)

  • 参入障壁

    • 規模の経済(固定費回収が早い/原価優位)、規制・認可、特許・独自データ、供給網の専有性。

    • 代理指標:粗利率の一貫性、値下げ競争の有無、シェアの安定

  • スイッチングコスト

    • 業務フローへの組み込み、周辺システムとの結合、学習コスト、データ移行の面倒さ。

    • 代理指標:解約率(チャーン)低水準、契約期間の長さ、導入からのロックイン度

  • ネットワーク効果

    • ユーザーが増えるほど価値が高まる(マーケットプレイス、決済、SaaSのエコシステム等)。

    • 代理指標:NRR(売上継続率)>100%、両側参加者の同時成長、補完アプリ数

判定のコツ:競争優位は“文章”よりKPIの粘りに出ます。3期連続で粗利率・解約率・NRRが良好ならA候補。

収益ドライバー(価格決定力・LTV/CAC・アップセル余地)

  • 価格決定力

    • 値上げ後の数量維持/粗利率改善が確認できるか。値上げ理由がコスト転嫁でなく価値向上か。

    • 代理指標:ARPU上昇と数量横ばい〜増、値引き率の縮小、顧客ミックスの上方移動。

  • LTV/CAC(単位経済)

    • 目安:LTV/CAC≥3、回収期間**<12ヶ月**(SaaS等)。

    • 非SaaSは**リピート率/同店売上/利用率(稼働率・搭載率)**で代替。

  • アップセル余地

    • 製品ラインの“はしご”(Good/Better/Best)、モジュール追加、クロスセルの自然な導線。

    • 代理指標:エクスパンション売上比率↑、NRR↑、上位プラン移行率↑。

注意:成長が“値上げだけ”で支えられている場合は一過性の可能性。数量・顧客数の動きとセットで確認

経営の資本配分(成長投資/買収/自己株買い/配当方針)

  • 優先順位の一貫性

    • 原則:①高ROICの有機的成長 → ②妥当なM&A → ③自己株買い → ④配当。

    • 代理指標:投資CFの内容、ROIC>WACCの維持、買収後の粗利・営業益の改善

  • M&Aの質

    • 買収後のKPI統合が説明されているか。のれん減損が常連化していないか。

    • 成功パターン:補完的技術の獲得→NRR・ARPU改善。失敗パターン:シェア買い+価格競争激化。

  • 株主還元の巧拙

    • 割安局面での自己株買い/希薄化抑制の姿勢。配当は持続可能なフリーCFの範囲

    • 代理指標:SBC(株式報酬)比率の高止まりは減点、買い戻しのタイミングが業績鈍化と逆行は注意。


クイックスコア(5点法・合計15点)

  • 競争優位:粘り強い粗利率+低解約+NRR>100% → 4–5点 / どれも弱い → 1–2点

  • 収益ドライバー:値上げ後も数量維持、LTV/CAC≥3、アップセル明確 → 4–5点

  • 資本配分:ROIC>WACC継続、M&A後KPI改善、割安時の買い戻し → 4–5点

判定ガイド
12–15点:A候補(第一次を満たす前提で即監視強化)/9–11点:B候補(価格や確認待ち)/〜8点:C(保留)


チェックリスト

  • ☐ 粗利率は3期連続で維持/改善している

  • ☐ 解約率は低位・NRR>100%(該当業種)

  • ☐ 値上げ後も数量や稼働率が崩れていない

  • ☐ LTV/CAC≥3 or 同店売上・リピート率が堅調

  • ☐ アップセルの導線(Good/Better/Best)が資料で明示

  • ☐ ROIC>WACCが継続、のれん減損が常態化していない

  • ☐ 自己株買いは割安局面で実施、SBC比率は抑制

レッドフラグ(見つけたらB以下へ)

  • 値上げ後に数量急減/チャーン悪化

  • 一発屋の特需依存(更新されない)

  • 連続のれん減損、希薄化を伴う調達常習

  • 重要KPIの開示中止/定義変更(不利なトレンド隠しの可能性)

この定性ふるいで“勝ち筋の質”を見極め、A/B/Cリストへ仕分けます。次はリスクと撤退条件を明文化します。

ステップ4:定性チェック(第二次ふるい)

「数値は良い。でも“なぜ勝てるのか”は?」――ここで勝ち筋の質を判定します。A/B/Cへ仕分けるための短距離走チェックです。

競争優位(参入障壁・スイッチングコスト・ネットワーク効果)

  • 参入障壁:規模の経済/規制・特許/独自データ/供給網の専有

    • 観察指標:粗利率の粘り、シェア安定、値下げ競争の有無

  • スイッチングコスト:業務フロー組込み、周辺システム連携、データ移行の負担

    • 観察指標:解約率の低位、契約期間、導入後の追加機能活用

  • ネットワーク効果:参加者が増えるほど価値上昇(両面市場・エコシステム)

    • 観察指標:NRR>100%、補完アプリ数、売り手・買い手の同時成長

A基準メモ:粗利率の維持+低チャーン+NRR>100%の3点がそろえば最有力。

収益ドライバー(価格決定力・LTV/CAC・アップセル余地)

  • 価格決定力:値上げ後も数量維持/粗利率改善が続くか

    • 観察指標:ARPU↑×数量≧横ばい、値引き率縮小

  • LTV/CAC:顧客獲得効率と寿命価値

    • 目安:LTV/CAC≥3、回収<12ヶ月(SaaSなど)。非SaaSはリピート率・同店売上で代替

  • アップセル余地:Good/Better/Best構成、モジュール追加、クロスセル動線

    • 観察指標:エクスパンション売上比率↑、上位プラン移行率↑

注意:値上げだけで伸びる局面は持続性に疑問。数量・顧客数・稼働率と必ずセット確認

経営の資本配分(成長投資/買収/自己株買い/配当方針)

  • 優先順位:①高ROICな有機成長 → ②妥当なM&A → ③自己株買い → ④持続可能な配当

    • 観察指標:ROIC>WACCの継続、投資CFの質、買収後のKPI改善

  • M&Aの質:相乗効果の定量説明(NRR/ARPU/粗利の改善)。のれん減損の常態化は減点

  • 還元の巧拙:割安時の買い戻し、SBC(株式報酬)膨張の抑制、希薄化の最小化


クイックスコア(各5点・合計15点)

  • 競争優位:粗利率の粘り+低チャーン+ネットワーク指標 → 4–5点

  • 収益ドライバー:価格決定力+LTV/CAC基準+アップセル動線 → 4–5点

  • 資本配分:ROIC>WACC継続+良質M&A+適時の買い戻し → 4–5点

判定ガイド:12–15点=A(監視強化・価格条件次第でIN)/9–11点=B(確認待ち)/〜8点=C(保留)

チェックリスト

  • ☐ 粗利率が3期連続で維持/改善

  • ☐ チャーン低位 or NRR>100%

  • ☐ 値上げ後も数量・稼働率が崩れていない

  • ☐ LTV/CAC≥3(相当指標でも可)

  • ☐ 上位プラン移行・モジュール追加が進む

  • ☐ ROIC>WACC継続、のれん減損常態化なし

  • ☐ 自己株買いは割安時、SBC比率は抑制

レッドフラグ(見つけたらB以下)

  • 値上げ後に数量急減/チャーン悪化

  • 特需頼みで更新されない成長

  • 重要KPIの開示中止・定義変更

  • 継続的な希薄化(増資・SO・CB乱発)

このふるいで**“数値の裏にある強さ”を見極め、次章のリスクと撤退条件**へ進みます。

ステップ5:リスク洗い出しと“何が壊れたら撤退か”

「保有の理由」が崩れた瞬間を事前に言語化しておくと、迷いなく動けます。ここでは前提→反証条件→トリガーの順で整理します。

業績ドライバーの前提と反証条件

  • 前提の書き方(1行)
    例)「値上げ定着で粗利率+150bps、NRR>105%が続く

  • 反証条件(壊れたサイン)

    • 粗利率が2四半期連続で-150bps

    • NRR<100%に低下/解約率の上振れ

    • 価格改定後に数量▲5%以上の縮小が継続

  • 数値トリガーの例

    • KPI:同店売上**<0%、稼働率<80%、ARPU▲3%以上**

    • 受注/バックログ:QoQ▲10%超の減少が2期連続

財務・コーポレートガバナンスの赤信号

  • 資金繰り・レバレッジ

    • 営業CF<純利益2期連続/在庫回転の悪化

    • Net Debt/EBITDA>3.0xへ急上昇、ICR<3x

  • 希薄化・資本効率

    • 希薄化を伴う増資・CB・SOの連発

    • ROIC<WACCが継続、のれん減損の常態化

  • ガバナンス

    • 重要KPIの開示中止/定義変更(不利な指標の隠れ蓑)

    • 社長交代・大株主異動など重要事象の説明不足

    • 関連当事者取引の増加、監査意見への但し書き

  • トリガー例(売却判断に直結)

    • 希薄化>5%の追加発行を1年内に複数回

    • 監査報告に継続企業の疑義/内部統制の重大な不備

    • 重要指標のガイダンス撤回や無期限の未提示

外部リスク(規制/為替/コモディティ/金利)

  • 規制:価格規制・認可遅延・データ保護強化

    • 反証条件:規制変更で売上の◯%影響と会社が明言/承認時期の再延期

  • 為替:輸出入、海外売上の比率を確認

    • 反証条件:想定レート乖離で営業益▲◯%超の下方修正

    • ヘッジ:為替感応度(△◯億円/1円)を開示メモ化

  • コモディティ:原材料・燃料・運賃

    • 反証条件:主要原料の価格YoY+◯%継続+価格転嫁率<70%

  • 金利:負債依存、住宅・自動車・設備投資敏感株

    • 反証条件:政策金利上振れで受注/与信コストが目標レンジ超え

ポイント:トリガーは**“数値+期間”**で固定。感情を入れず、シートに従って実行します。

ステップ6:候補絞り込みの実務フロー

数を“磨り減らす”工程です。同じ型で可視化→点数化→A/B/Cへ仕分けの3ステップで迷いを減らします。

スコアリング表の作り方(重み付け例)

  1. 評価項目と重みを固定(合計100点)

    • 収益性:25

    • 成長性:20

    • 財務健全性:15

    • バリュエーション:15

    • 競争優位:15

    • 資本配分:10

  2. 5段階で採点(A=5 / B=4 / C=3 / D=2 / E=1)
    例:営業利益率が業界上位四分位=5、業界平均付近=3、下位=1。

  3. 重み付き合計=総合点(100点満点)
    例:収益性5点×25=25点、…を合計。

  4. 同点時のタイブレーク

    • ①ROIC>WACCの超過幅 ②NRR/チャーン ③FCF利回りの順で優先。

  5. 欠損データの扱い

    • 開示なし=原則“3点(中立)”で仮置き→次決算で更新。恣意的な加点はしない。

銘柄収益性(25)成長性(20)健全性(15)バリュエ(15)競争優位(15)資本配分(10)合計(100)
銘柄A2516121312886
銘柄B201413119774
銘柄C181210108664

運用メモ(コピペOK)

  • スコアは**一次(定量)→二次(定性)**の順で入力。

  • “理由”を1行で残す(例:〈収益性25〉粗利率+NRR安定/〈バリュエ〉EV/EBITDA=9x等)。

  • スコア確定後、価格条件(目標レンジ・買い増し/撤退トリガー)を欄外に明記。

A/B/Cリスト運用と見直し頻度(四半期決算ごと)

しきい値(目安)

  • A:80–100点…即行動ゾーン(条件合致でIN/増やす)

  • B:65–79点…監視強化ゾーン(価格/材料待ち。価格アラート設定)

  • C:〜64点……保留/除外(改善条件を明文化し、満たすまで触れない)

月次の軽点検(30分)

  • 価格と出来高だけ確認。目標レンジに入ったらAへ昇格審査

  • ニュースは“トリガー該当のみ”拾う(定例は読まない)。

四半期の本点検(決算ごと・2〜3時間)

  1. 決算反映:スコア更新(粗利率・ガイダンス・CF・KPI)。

  2. 昇降格ルール

    • B→A:ガイダンス上方修正 or 目標PER/EV倍数に回帰、またはNRR・粗利率改善の継続。

    • A→B/C:撤退トリガーに触れた/重要KPIの悪化が続く。

  3. ポジション調整

    • A合計比率の上限(例:**ポートの70%**まで)、**1銘柄上限10%**を遵守。

    • Bは試し玉のみ(例:最大3%)。Cは原則ゼロ。

イベント時の臨時点検

  • 規制・大型M&A・ガイダンス撤回などは即時スコア更新→A/B/C再判定

  • 感情で動かず、事前に定めたトリガー表に従う。

ポイントは**“基準の固定化”と“更新の習慣化”。毎回同じ型で判定することで、主観とノイズを最小化できます。次章ではバックテストと妥当性確認**に進みます。

ステップ7:バックテストと妥当性確認(任意)

“机上の理想”を過去の地合いに突っ込んで、勝ち筋と弱点(ドローダウン)を把握します。ここは凝りすぎず、簡素+再現可能が正義。

過去データでの勝ち筋とドローダウン確認

  • 検証期間の切り方

    • 強気局面/弱気局面/もち合いの3フェーズを最低1回ずつ含める(例:過去5〜10年)。

  • 検証の前提を固定

    • ユニバース:ステップ1で決めた条件のまま

    • リバランス頻度:四半期(決算反映)

    • 銘柄数:同率ウェイトで10〜20銘柄

    • コスト:売買手数料+**スリippage0.1〜0.3%**を必ず控除

    • 税金:任意(比較用に“税引き前/後”の両方を出すと◎)

  • 出すべき指標(最低限)

    • 年率リターン、最大ドローダウン(MaxDD)、ボラティリティ

    • 勝率(上がった四半期の比率)ペイオフ比(平均勝ち/平均負け)

    • シャープ or カルマ―(年率/MaxDD)ターンオーバー(売買回転率)

  • 判定の目安

    • 期待:市場(ベンチ)比で**年率+2〜4%**の超過、MaxDDがベンチ±5pt以内

    • NG:超過収益は高いがMaxDDが極端/リターンの大半が特定年に集中

  • エクセル/スプレッドシート簡易手順

    1. 銘柄リスト×四半期ごとスコア→上位N銘柄を抽出

    2. 翌四半期初に等ウェイトで組入れ、終値で四半期末評価

    3. コスト控除後のリターンを乗算、累積曲線とドローダウンを作図

    4. 同期間のベンチ指数と比較(差分もグラフ化)

期間年率リターン最大DDボラ勝率ペイオフ比カルマーTO(年)
戦略+12.4%-22.0%16.5%62%1.450.561.2x
ベンチ+8.1%-24.5%17.8%57%1.180.33

ありがちな落とし穴(要チェック)

  • 生存者バイアス(現存銘柄だけで過去を回す)

  • 先読み(ルックアヘッド)(決算発表前の数値で選んでいないか)

  • 過度な売買(コスト未考慮で成績が良く見える)

  • 単一年依存(一発屋の年度が全成績を引き上げ)

過学習を避けるルール作成

  • 時系列で分割(ランダム分割はNG)

    • **学習(過去)→検証(直近手前)→本番(直近)**の3分割

    • 例:2016–2021で設計/2022–2023で検証/2024–2025で本番評価

  • ウォークフォワード(現実運用に近い)

    • 毎四半期:直近3年で重み調整→次四半期の成績を記録→ロール

    • 未来情報”を絶対に使わない(使ったらやり直し)

  • パラメータは“幅”で決める

    • 例:OPMしきい値「8〜12%のどれでも機能」→10%に固定

    • 1%単位の微調整は禁止(粗い設定が再現性を生む)

  • 複雑さを罰する

    • ルールは3〜5個に限定。新ルール追加は1回の見直しで1個まで

    • 追加時は削るルールを1個同時に決める(肥大化防止)

  • “凍結期間”を設ける

    • 改定後は90日凍結(途中でいじらない)

    • 凍結中は記録だけ(勝ち負けを見て動かない)

  • 採用基準(どれか1つでも満たす)

    • ベンチ超過+MaxDD許容内

    • ベンチ同等だがDD・コスト・手間が小さい

    • セクター被りを減らし全体の分散に利く

ここで“勝ち方の再現性”と“負け方の許容度”が見えます。納得できたら、いよいよ買い方・ポートフォリオ設計へ。

ステップ8:買い方・ポートフォリオ設計

“良い銘柄”を“良い買い方”で持つ。ここでは入る・持つ・出るを数値で固定します。

エントリー基準(分割買い・乖離幅・イベント活用)

  • 分割買いの型

    • 初回30% → 目標レンジ内の押しで30% → 決算確認後40%。

    • 狙い:平均取得単価を平準化し、決算リスクを段階吸収。

  • 目標レンジと乖離幅

    • フェアバリュー(例:EV/EBITDA=業界中央値×自社マージン補正)を算出し、
      **フェア−10〜−15%で初回IN、−20%**で2回目、決算後に妥当確認で最終IN

  • イベント活用

    • 決算翌日のギャップ埋め(大幅上昇→押しを拾う/下落→反発確認後)。

    • 指数リバランス・MSCI入替・需給歪みは“その日ではなく翌営業日に分割で”。

  • テクニカル補助(最小限)

    • 200日線乖離**−5〜−10%でアラート。出来高急増の陰線は見送り**。

ポジションサイズと分散(相関とセクター被りの回避)

  • 1銘柄上限10%(最大でも15%)。試し玉は**3%**まで。

  • A/B/C配分:A合計**≤70%、B合計≤30%、Cは0%**(監視のみ)。

  • セクター上限:1セクター25%まで。半導体×ITサービスの高相関被りは同時最大30%

  • 相関の管理:四半期ごとに相関行列を更新(高相関>0.7が3銘柄以上なら入替候補)。

  • 現金バッファ:常時**10〜20%**を確保(決算ショック時の機動力)。

配分ひな型(10〜12銘柄想定)

  • コア(A):7銘柄×各8%=56%

  • サテライト(B):3銘柄×各5%=15%

  • 現金:15% / ETF・ヘッジ:14%(任意)

売却・乗換えルール(“仮説が壊れたら即撤退”)

  • 撤退トリガー(例)

    • 粗利率が**−150bps以上×2期連続**/**NRR<100%**化/受注QoQ−10%×2期

    • ICR<3xまたはNet Debt/EBITDA>3.0xへ悪化。

    • 重要KPIの開示中止、継続企業の疑義、**希薄化>5%**の連発。

  • 価格トリガー

    • フェアバリュー比**+25〜30%部分利確(1/3)**、上方修正で再評価。

    • −15%で点検、−25%で一旦クローズ(再IN条件を別紙に)。

  • 乗換え基準

    • 同セクターでROIC超過幅・NRR・粗利粘りが明確に上の銘柄が割安圏に入ったら、
      :部分 or 全売却 → :分割でIN(同日フル乗換えは避ける)。

  • 売却の順番

    • 仮説崩壊銘柄 → ②相関被りの劣後銘柄 → ③フェア超過の割高銘柄

ここまで決めておけば、日々の判断はアラートに従って実行するだけ。次は**付録(テンプレとQ&A)**で運用を軽くします。

付録A:実務テンプレ

「そのまま使える」形にまとめました。必要なところだけ置き換えてください。

初期スクリーニング条件(コピペOKの条件例)

日本株(東証)

  • 取引所:プライム / スタンダード

  • 時価総額:300億〜2兆円

  • 3カ月平均売買代金:≥1億円

  • 株価:≥200円

  • 連続営業赤字:2期で除外

  • 債務超過・監理/整理:除外

  • Net Debt/EBITDA:≤2.0x(M&A期は≤3.0xかつ返済計画明示)

  • インタレスト・カバレッジ:≥5x

米国株(NYSE/NASDAQ)

  • 時価総額:$0.5B〜$50B

  • 3カ月平均(出来高×株価):≥$1M/日

  • 株価:≥$5

  • 連続営業赤字:2期で除外

  • Going Concern注記・希薄化連発:除外

  • Net Debt/EBITDA:≤2.0x、ICR:≥5x

置き換え変数:時価総額レンジ、流動性基準、赤字連続期数は運用に合わせて±調整。


スコアリング表(項目×重み)ひな型

採点ルール:A=5 / B=4 / C=3 / D=2 / E=1 の5段階 → 重みを掛けて合計(100点)

  • 収益性 25(OPM/ROE/ROIC)

  • 成長性 20(売上/営利CAGR・ガイダンス達成)

  • 財務健全性 15(自己資本比率・Net Debt/EBITDA・ICR)

  • バリュエーション 15(PER・PBR・EV/EBITDA・FCF利回り)

  • 競争優位 15(参入障壁・スイッチングコスト・ネットワーク効果)

  • 資本配分 10(ROIC>WACC・M&Aの質・還元の巧拙)

銘柄収益性(25)成長性(20)健全性(15)バリュエ(15)競争優位(15)資本配分(10)合計(100)メモ
銘柄A2516121312886粗利率↑、EV/EBITDA=9x
銘柄B201413119774NRR=104%、自己株買い実施
銘柄C181210108664在庫回転悪化

タイブレーク順(同点時)

  1. ROIC−WACC超過幅が大きい

  2. NRR高・チャーン低

  3. FCF利回りが高い


決算チェックリスト(5分版)

使い方:決算短信+説明会資料を手元に、上から順に◯/△/×で埋めるだけ。

  1. サマリ(1分)

    • □ ガイダンス:上方/据置/下方(理由:価格/数量/為替/コスト)

    • □ 粗利率:改善/横ばい/悪化(一時要因 or 構造?)

  2. セグメント(1.5分)

    • □ 価格×数量×ミックスで増減要因が説明されている

    • □ KPI(ARPU/同店/稼働/受注/バックログ)が目標レンジ内

  3. CF・運転資本(1分)

    • □ 営業CFが利益と歩調を合わせている

    • □ 在庫・売掛・買掛の逆回転なし(在庫日数↑は注意)

  4. 資本配分(0.5分)

    • □ ROIC>WACC継続/投資CFの質が高い

    • 還元の整合(割安時の自己株買い、配当はFCF内)

  5. リスク・開示(1分)

    • □ 重要KPIの開示継続・定義変更なし

    • □ 規制/為替/原材料の感応度が明示(または説明あり)

迷ったら“数値+期間”でメモ化。毎期同じ票で回すほど、判断が速くブレなくなります。

付録B:よくある誤解Q&A(ショート)

「PERは低ければ低いほど良い?」

A:NO。 PERは“期待の低さ”も映します。構造的に成長が鈍い、景気ピークで利益が膨らんでいる――などの理由で見かけ上の低PERはよく起きます。
見る順番は、①ROIC>WACCか(価値創造できているか)→ ②利益の持続性(粗利率・需要の質)→ ③同業比較のレンジ。低いだけで買うのは危険です。

「配当利回りが高いほど安全?」

A:NO。 利回りは“未来の安全”ではなく、現在の価格と過去の配当の比。業績悪化で株価が下がった結果の高利回りや、無理な還元でCFが枯れるケースもあります。
確認すべきは、①営業CFと配当の釣り合い(配当性向だけでなくCFベース)②減配の耐性(赤字でも継続できるか)③配当方針の一貫性。利回りは“入口の指標”、持続性が本質です。

「成長株にバリュエーションは不要?」

A:NO。 高成長でも価格を無視すると期待の剝落に耐えられません
使い方のコツは、①PEG≒1前後(成長率に見合うか)②EV/売上×粗利率(粗利の厚みで補正)③将来FCFの見通し(単位経済:LTV/CAC、NRR)。“良い会社を、妥当な価格で”が長期の勝ち筋です。

まとめ:続けられる“自分の型”を作る

長期投資は「勘」ではなく「型」で勝ち続けるゲームです。
ユニバース→定量→定性→リスク→配分――を同じ順番・同じ基準で回すほど、判断は早く、ブレは小さくなります。完璧を狙うより、不完全でも同じ型を回し続けることがリターンの源泉です。

今日のアクション3つ(条件設定→10銘柄抽出→スコア表に転記)

  1. 条件設定(10分)

    • 国・市場・時価総額・流動性・除外条件を“1行”で固定。

    • 例:東証プライム/スタンダード、時価総額300億〜2兆円、売買代金≥1億円、連続営業赤字2期で除外。

  2. 10銘柄抽出(20分)

    • 第一次フィルタ(OPM/ROE/ROIC、CAGR、健全性、EV/EBITDA)で機械的に足切り

    • 残った中から**定性の要点(競争優位・LTV/CAC・資本配分)**を各1行でメモし、上位10銘柄に絞る。

  3. スコア表に転記(15分)

    • 6項目×重みで点数化→A/B/Cに仕分け。

    • Aは価格条件を明記(初回IN=フェア−◯%、追加IN=決算後など)、Bは待ち条件、Cは再評価条件を書き残す。

明日からは四半期ごとに更新するだけ。型が整えば、日々のノイズに振り回されません。