決算分析レポート
【6702】富士通 2026年3月期 第3四半期
決算徹底分析
2026年1月29日発表|営業利益倍増、非継続事業の売却益で純利益急伸。通期予想も上方修正。
第1章:定量分析
1-1. 業績数値の比較
前年同期(2025年3月期Q3累計)、今期実績(2026年3月期Q3累計)、会社発表の通期業績予想を比較します。なお、富士通はIFRS適用のため「経常利益」の開示はなく、代わりに「税引前利益」を記載しています。
| 項目 | 前年同期 (25/3期 Q3累計) | 今期実績 (26/3期 Q3累計) | 前年同期比 | 通期予想 (26/3期) |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益(百万円) | 2,408,006 | 2,451,184 | +1.8% | 3,530,000 |
| 営業利益(百万円) | 105,839 | 211,001 | +99.4% | 360,000 |
| 税引前利益(百万円) | 114,201 | 265,129 | +132.2% | ― |
| 親会社帰属純利益(百万円) | 88,052 | 343,693 | +290.3% | 425,000 |
| EPS(円) | 48.15 | 194.03 | +303.0% | 241.83 |
| 調整後営業利益(百万円) | 137,153 | 229,163 | +67.1% | 380,000 |
| 調整後EPS(円) | 58.52 | 96.81 | +65.4% | 156.48 |
| 年間配当金(円) | 28.00(前期実績) | ― | 50.00(予想) | |
※売上収益・営業利益・税引前利益は継続事業ベース。純利益は非継続事業を含む全体。通期予想は2026年1月29日時点の会社発表値(前回予想比:売上+800億円、営業利益据え置き、純利益+350億円の上方修正)。
1-2. 財務諸表の変化点
【貸借対照表(BS)の主な変化】
- 現金及び現金同等物:2,361億円 → 4,548億円(+2,187億円)。新光電気工業の売却収入等で大幅増加。
- 売上債権:8,949億円 → 5,121億円(△3,828億円)。季節性による回収進捗に加え、非継続事業の連結除外の影響。
- 契約資産:1,968億円 → 4,126億円(+2,158億円)。進行中プロジェクトの増加を反映。
- 売却目的保有資産:4,140億円 → 0円。デバイスソリューション(新光電気工業)の売却完了。
- のれん:783億円 → 1,323億円(+540億円)。ブレインパッド取得に伴う暫定計上。
- 退職給付に係る資産:1,415億円 → 1,918億円(+503億円)。年金資産の運用好調。
- 総資産:3兆4,978億円 → 3兆2,130億円(△2,848億円)。売却目的保有資産の消滅が主因。
【負債の主な変化】
- 借入金及びリース負債(流動):1,470億円 → 403億円(△1,067億円)。短期借入金の返済が進展。
- 負債合計:1兆5,957億円 → 1兆1,941億円(△4,016億円)。売却目的保有資産関連負債の消滅および借入金返済。
【資本・自己資本比率】
- 親会社帰属持分:1兆7,410億円 → 1兆9,991億円(+2,581億円)。純利益の積み上げが主因。
- 自己資本比率:49.8% → 62.2%(+12.4pt)。資産圧縮と利益蓄積の両面で大幅改善。
- 非支配持分:1,611億円 → 198億円(△1,413億円)。新光電気の売却による減少。
- 自己株式:△5,597億円 → △6,430億円。847億円の自社株買いを実施。
【キャッシュ・フロー】
- 営業CF:992億円 → 1,910億円(+918億円)。税前利益の大幅増加が寄与。
- 投資CF:△1,223億円 → +1,993億円。子会社売却収入(約2,980億円)が主因でプラス転換。
- 財務CF:△189億円 → △2,811億円。短期借入金の返済(△1,111億円)、自社株買い(△847億円)、配当(△515億円)。
- 期末現金残高:3,083億円 → 4,548億円。フリーCFが大幅に改善し、手元流動性が厚くなった。
第2章:定性分析
決算短信の本文・セグメント情報・注記事項から読み取れる経営状況を、前期比での良化点・悪化点に整理します。
| 観点 | ✅ 良くなった点 | ⚠️ 悪くなった点・注意点 |
|---|---|---|
| 経営成績 | ・サービスソリューションの調整後営業利益が1,615億円→2,161億円(+33.8%)と大幅増益。収益性改善が顕著。 ・ハードウェアソリューションも142億円→371億円と2.6倍に急伸。 ・ユビキタスソリューション(PC)も204億円→315億円と堅調。 ・売上総利益率が32.2%→34.8%に改善。原価低減が進展。 ・販管費は△109億円削減(6,551億円→6,442億円)。コスト効率化が奏功。 ・持分法投資利益が37億円→479億円に急増(新光電気売却益等)。 | ・売上収益の成長率は+1.8%と緩やか。トップライン成長には課題。 ・ハードウェアソリューションの外部売上は6,618億円→6,193億円と△6.4%減収。 ・純利益3,437億円のうち非継続事業利益が1,463億円と大きく、一過性要因が含まれる点に留意。 ・事業再編・構造改革費用が△146億円発生(前年は△277億円で減少はしている)。 |
| 財政状態 | ・自己資本比率62.2%で盤石な財務基盤を構築。 ・現金残高が前期末比+2,187億円の4,548億円に増加。 ・有利子負債が大幅減少(流動借入金が約1,067億円減)。実質無借金に近い状態。 ・退職給付に係る資産が+503億円増加し、オフバランスの含み益が拡大。 | ・棚卸資産が2,059億円→2,548億円(+489億円)と増加。在庫管理には注視が必要。 ・繰延税金資産が2,275億円→1,848億円と△427億円減少。将来の税効果が縮小。 ・のれんが+540億円増加(ブレインパッド取得の暫定処理)。PPA完了後の減損リスクに注意。 |
| 将来見通し | ・通期予想を上方修正:売上+800億円、純利益+350億円。経営陣の自信がうかがえる。 ・年間配当を50円に増配予想(前期28円から78.6%増)。株主還元を大幅強化。 ・「Uvance」を成長戦略の中核に、Data&AI領域でブレインパッドを取得。成長投資を継続。 ・デバイス事業売却完了でIT/DX特化のポートフォリオが完成。経営資源の集中が可能に。 | ・為替動向・金利変動・地政学リスクは引き続き不確実要因。 ・通期売上予想は前年比△0.6%と微減収の見通し。成長加速には時間を要する可能性。 ・価格競争の激化・部品調達環境の変化が懸念材料として挙げられている。 ・ブレインパッドのPPA(取得原価配分)が未完了。追加ののれん償却・減損リスクあり。 |
セグメント別動向
| セグメント | 外部売上 (百万円) | 前年同期比 | 調整後営業利益 (百万円) | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| サービスソリューション | 1,634,249 | +6.4% | 216,100 | +33.8% |
| ハードウェアソリューション | 619,329 | △6.4% | 37,084 | +161.6% |
| ユビキタスソリューション | 177,885 | △1.8% | 31,481 | +54.6% |
| 消去・全社 | 19,721 | ― | △55,502 | ― |
| 連結合計 | 2,451,184 | +1.8% | 229,163 | +67.1% |
主力のサービスソリューションは売上・利益ともに好調で、Uvanceを中心としたDX需要を着実に取り込んでいます。ハードウェアソリューションは売上こそ減少したものの、利益率の大幅改善により営業利益は2.6倍に急伸しました。ユビキタスソリューション(PC事業)も収益性が向上しています。
第3章:投資判断の示唆
1. 業績トレンドの安定性・成長性
調整後営業利益は前年同期比+67.1%と本業ベースでの収益力改善が明確です。ただし売上成長率は+1.8%にとどまり、トップラインの爆発力よりも「利益率改善型」の成長フェーズにあります。非継続事業の売却益を除いた実質的な利益成長を見極めることが重要です。調整後EPSは58.52円→96.81円と+65.4%成長しており、本業の収益力向上は確かです。
2. 財務健全性
自己資本比率62.2%、現金残高4,548億円、有利子負債の大幅圧縮と、財務基盤は極めて良好です。デバイス事業の売却完了により、バランスシートがスリム化し、資本効率の改善が見込まれます。
3. 株主還元
年間配当は28円→50円(予想)へと78.6%の大幅増配。中間配当は14円→15円に増額済みです。加えて当期累計で847億円の自社株買いを実施しており、株主還元姿勢は非常に積極的です。通期のEPS予想241.83円に対し配当50円の場合、配当性向は約20.7%であり、さらなる増配余地も残されています。
4. 業界動向・マクロ影響
国内DX需要は引き続き旺盛で、官公庁・金融・製造業向けのIT投資は堅調です。一方、為替変動(円安局面での海外子会社評価益と輸入コスト増の両面)、グローバルな金利環境、地政学リスクは不確実要因です。Data&AI市場への戦略投資(ブレインパッド取得)は中長期の成長ドライバーとなる可能性があります。
📊 参考投資判断
本業の収益力改善が明確であり、調整後営業利益率の向上トレンドが継続しています。デバイス事業売却によるポートフォリオ最適化が完了し、IT/DX特化型企業としての再評価が期待されます。自己資本比率62.2%と財務基盤は盤石で、大幅増配・自社株買いと株主還元も充実。ブレインパッド取得によるData&AI領域の強化は中長期の成長余地を広げます。
留意点:純利益3,437億円には非継続事業の売却益(約1,463億円)が含まれており、来期以降は一過性要因が剥落します。通期売上予想が前年比微減である点も含め、「実質的な成長力」の持続性を注視する必要があります。
補足データ
| 指標 | 数値 | コメント |
|---|---|---|
| 調整後EPS成長率(YoY) | +65.4% | 本業ベースでの高成長 |
| 配当性向(通期予想ベース) | 約20.7% | 増配余地あり |
| 自己資本比率 | 62.2% | 前期末49.8%から大幅改善 |
| 期中自社株買い | 847億円 | 積極的な株主還元 |
| 期末発行済株式数 | 20.71億株 | 自己株式3.15億株を含む |