この記事の狙い
広島電鉄(広電・9033)を、直近四半期・過去3年の業績、運賃改定や新線開業などの重要イベント、中期投資、株価バリュエーション、利用者の声まで立体的に整理し、「今は買いか?」を結論づけます。
直近決算ハイライト(数値は期・単位併記)
2026/3期 1Q(2025/4–6、百万円):売上高7,889(YoY▲1.4%)、営業損失▲56、経常利益114、四半期純利益123。自己資本比率42.5%。
2025/3期 通期(百万円):売上高33,709(+10.6%)、営業損失▲1,419、経常損失▲1,243、親会社純利益1,379、自己資本比率40.1%、期末配当8円。
2024/3期 通期(百万円):売上高30,466、営業損失▲1,088、経常損失▲970、親会社純利益656。
2026/3期 通期見通し:売上355.6億円(+5.5%)、営業損失▲6.1億円予想、配当8円を計画。
運賃改定:2025/2/1に電車・市内バスを240円均一へ。定期券制度・割引の再編あり。
重要イベント(時系列でサクッと把握)
2025/2/1:運賃改定(電車・市内バス240円均一)
定期券制度の見直しやデジタル施策(会員割引等)とセットで実装。短距離は実質値上げ、長距離は一部値下げとなり、収受の平準化と運行最適化が狙い。2025/8/3:駅前大橋ルート開業(JR広島駅2F直結)
乗換動線が短縮・バリアフリー性も向上。雨天時でもスムーズに乗り継げる“全天候導線”化で、通勤・通学・観光の回遊性を底上げ。2025年内:ダイヤ見直し・運行最適化(段階実施)
乗降データを踏まえた便数・停留所ごとの最適化を継続。混雑時間帯の積み増しや、閑散帯の効率化など、採算と利便のバランスを探るフェーズ。デジタル乗車基盤(ABT/会員施策)の拡張
会員化・キャッシュレス前提の運賃設計(例:乗継割引・利用実績に応じた特典)を段階導入。運賃改定の“痛み”を軽減しつつ、LTV向上を図る土台。不動産・再開発の波及
駅前大橋ルートの開業により、広島駅・都心部の人流が再配置。沿線の商業・宿泊・分譲/賃貸の開発・稼働に波及効果が期待される構図。
注:運賃改定は通期で効果がのるのは2026/3期。駅前大橋ルートは2Q以降で実需の確認と定着度の測定が可能に。
表A:通期KPI(過去3期、単位:百万円)
期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 親会社純利益 | OPM |
---|---|---|---|---|---|
2023/3 | 27,450 | ▲3,212 | ▲3,027 | 943 | ▲11.7% |
2024/3 | 30,466 | ▲1,088 | ▲970 | 656 | ▲3.6% |
2025/3 | 33,709 | ▲1,419 | ▲1,243 | 1,379 | ▲4.2% |
メモ:売上は3年で+23%回復。一方でOPMは赤字圏が継続。
表B:直近四半期スナップ(足元、単位:百万円)
期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 親会社純利益 |
---|---|---|---|---|
2026/3期 1Q | 7,889 | ▲56 | 114 | 123 |
表C:セグメント別KPI(直近通期ベース、単位:百万円)
セグメント | 収益 | 営業利益(損失) | 補足 |
---|---|---|---|
運輸(鉄軌道・自動車等) | 210,081 | ▲3,110 | コスト上昇・補助金減で赤字継続 |
流通 | 11,918 | 4 | SA来客は堅調もコストが重い |
不動産 | 53,370 | 1,584 | 賃貸・分譲ともに寄与 |
建設 | 73,890 | 245 | 駅前大橋ルート関連等で増収 |
レジャー・サービス | 8,650 | ▲73 | 初期費用等で赤字 |
モメンタム判定(過去3年→直近)
水準回復度:売上はコロナ後の回復+建設・不動産の寄与で右肩。連結OPMは赤字圏だが、損失規模は2023/3 → 2024/3で縮小、2025/3はコスト高で再拡大。
加速度:2026/3期1Qは小幅赤字まで改善。運賃改定の通期寄与と新ルート開業効果は2Q以降に本格反映。
中期見通し(3–5年)
需要(量)
駅前大橋ルートでJR⇄路面電車の結節強化。通勤・通学・観光の乗継需要を取り込み、都心回遊性を底上げ。インバウンド・観光は回復基調。
価格(運賃)
240円均一で短距離は値上げ・長距離は一部値下げのミックス。収受の平準化と運行最適化を後押し。
コスト
人件費・電力・修繕・減価が構造的に重い。ダイヤ見直し・車両更新・デジタル化で効率化余地。
投資(CAPEX)
直近は大型投資が先行。駅前大橋関連やデジタル基盤の整備は山場を越えつつあり、回収局面への移行スピードが焦点。
簡易感応度(考え方)
需要±5〜10%:運輸売上に直結(固定費比率が高く限界利益率は高めに出やすい)。
運賃±:均一運賃の浸透度合いで収受ブレ。
人件費・電力±:OPMを大きく左右。
補助金有無:期ズレによる損益ブレに注意。
現在のバリュエーション(概況)
株価水準(例):時価総額約200億円前後、PBR ≈0.47〜0.50倍、PER ≈13〜15倍、配当8円で利回り1〜1.6%程度(株価により変動)。
示唆:資産バリュー(簿価)に対するディスカウントが続く一方、連結の営業赤字・FCFマイナス(投資期)がリレーティングのブレーキ。
利用者の最近の声(直近3〜6か月の傾向)
乗換・所要時間
傾向:JR⇄路面電車の移動が早く、迷いにくいとのポジ評価が増加。
典型(要約):「改札から数分で乗り場」「雨でも濡れにくい」「観光客でも分かりやすい」。
混雑・キャパ
傾向:開業直後〜週末は混雑の指摘が目立つ一方、平日オフピークは許容感。
典型(要約):「朝夕ピークは混む」「新停留所周辺は賑わいすぎ」「列整理が必要な時間帯あり」。
運賃(240円均一)の体感
傾向:賛否両論。短距離は割高感、長距離や観光一日券ユーザーは納得感という分布。
典型(要約):「近距離は上がった実感」「宮島方面などは使いやすくなった」「定期見直しで使い方を再検討」。
キャッシュレス・案内
傾向:IC・QR等の使い勝手は概ね好意的。英語・ピクト強化など案内改善の前向き評価。
典型(要約):「券売機に並ばず乗れる」「訪日客にもわかる表示が増えた」。
観光客目線
傾向:市内観光の回遊性とコスパ評価が堅調。宮島口連携の満足度も高め。
典型(要約):「一日で主要スポットを回りやすい」「広島駅直結で旅程が組みやすい」。
居住者・通勤通学目線
傾向:定時性・混雑・運賃負担の3点が継続的な論点。
典型(要約):「ピーク帯の本数・車両運用をもっと調整してほしい」「値上げ分のサービス改善を期待」。
バリアフリー・ベビーカー
傾向:新ルートの動線は高評価。車内スペースや停留所の余裕は時間帯差が大きい。
典型(要約):「エレベーター動線がスムーズ」「混雑時は乗降サポートがあると助かる」。
使い分けのコツ:平日オフピークは快適度↑、週末・イベント時は混雑前提。訪日客レビューは観光動線の評価が中心で、通勤者の評価軸と異なる点に注意。
リスク & カタリスト
リスク
需要ボラ(天候・イベント・災害)、電力/人件費の高止まり、車両更新負担、補助金変動、投資回収の遅れ。
カタリスト
駅前大橋ルートの利用定着、ダイヤ最適化、運賃改定の通期寄与、都心再開発の波及、デジタル施策の浸透。
結論:「今は買いか?」
投資判断:HOLD(中立)/打診買いは可
PBR≒0.5倍の資産割安感は魅力。一方で、営業黒字化の確度とFCFの転正がまだ確認途上。ベース(12か月):会社計画線どおり営業損失▲6.1億円規模まで縮小 → PBR 0.5–0.65倍レンジ想定。
ブル:観光堅調×乗継改善×効率化で損失大幅縮小〜黒字接近 → PBR ~0.7–0.8倍。
ベア:需要鈍化×コスト高止まり → PBR ~0.45倍のディスカウント固着。
反証条件(Buyへ格上げ目安)
① 連結営業損失が▲6.1億円→▲3億円以内(または黒字)に上振れ、
② 輸送人員/運賃収入が二桁YoYを複数Q継続、
③ 投資一巡でFCF黒字化の兆候が明確。サイズ指針
地方私鉄バリューの分散ポジションの一部として小〜中で段階的に。