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2026年9月18日公開
2026年9月17日の取引終了後、東証スタンダード上場の日本抵抗器製作所(6977)が2本の開示を同時に出しました。1本は「フェローテック(6890)による公開買付け(TOB)への賛同・応募推奨」、もう1本は「今期の期末配当を無配にする」という配当予想の修正です。この2本はセットで読まないと意味が通りません。減配そのものが業績悪化のサインではなく、TOB価格の中に期末配当分が織り込まれていることの裏返しだからです。
個別株を持っていなくても、TOBは「1年に何十件も起きる、ルールが決まったイベント」です。この記事では6977の事例を教材に、TOB開示のどこを見れば条件の良し悪しと成立確度が判断できるのかを分解します。
この記事の結論
フェローテックが6977株を1株1,901円で買い付ける。公表前日終値1,318円に対してプレミアム44.23%、期間は2026年9月18日〜11月5日の30営業日。成立すれば完全子会社化・上場廃止となる。
期末配当が15円→0円になるのは業績悪化ではなく、「期末無配を前提に1,901円を算定した」と買付者が明言しているため。一方で買付予定数の下限が3分の2ではなく過半数(50.27%)に設定されており、スクイーズアウトが一発で決まらない可能性は開示文書自身が認めている。ここが本件最大の論点。
① 何が起きたのか|TOBの条件を数字で押さえる
まず事実関係を整理します。買付者は半導体装置部材や車載部品を手がけるフェローテック(6890)。対象は抵抗器・ポテンショメーター・ハイブリッドICを作る日本抵抗器製作所(6977)で、富山・大分に工場を持ち、中国とタイにも生産拠点があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 買付者 | 株式会社フェローテック(6890) |
| 対象 | 株式会社日本抵抗器製作所(6977・東証スタンダード) |
| 買付価格 | 1株 1,901円 |
| 買付期間 | 2026年9月18日(金)〜11月5日(木)/30営業日 |
| 決済開始日 | 2026年11月12日(木) |
| 買付予定数の下限 | 618,700株(買付後の所有割合 50.27%) |
| 買付予定数の上限 | 設定なし |
| 買付代金 | 23億5,100万円(買付予定数 1,237,203株) |
| 目的 | 完全子会社化。成立後は上場廃止となる予定 |
| 対象会社の対応 | 賛同の意見表明+株主への応募推奨(9月17日決議) |
出典:日本抵抗器製作所「株式会社フェローテックによる当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」(2026年9月17日)
買付代金は約23.5億円。TOBとしてはかなり小型の案件です。発行済株式数が124万株しかないため株価の絶対値が高く見えますが、会社の規模自体は小さいということです。
売り手側の事情も開示に書かれています。2025年11月に6977側からみずほ証券を通じて提携相談を持ちかけたのが発端で、2026年2月には「経営陣の高齢化が進む中で明確な後継者が定まっていない」ことを理由に、完全子会社化も有力な選択肢として協議を続けたいと回答しています。いわゆる敵対的買収ではなく、後継者問題を出発点とした合意型の案件です。
② なぜ期末配当が「無配」になるのか
同時に出たもう1本が配当予想の修正です。内容はこうなっています。
| 区分 | 第2四半期末 | 期末 | 年間合計 |
|---|---|---|---|
| 前回予想(2026年2月16日公表) | 15円00銭 | 15円00銭 | 30円00銭 |
| 今回修正予想 | 15円00銭(実績) | 0円00銭 | 15円00銭 |
| 前期実績(2025年12月期) | 15円00銭 | 10円00銭 | 25円00銭 |
出典:日本抵抗器製作所「令和8年12月期の期末配当予想の修正(無配)に関するお知らせ」(2026年9月17日)
年間30円の予想が15円に半減します。ただし中間配当15円はすでに実績として確定しており、減るのは期末の15円だけです。そして重要なのは、この無配化が「本公開買付けが成立することを条件に」決議されている点です。TOBが不成立なら、この無配決議も効きません。
理由は開示に明記されています。買付者が「期末配当を行わないことを前提として買付価格を総合的に判断・決定した」ため。つまり期末配当15円分は、会社から株主へ配当として出る代わりに、TOB価格1,901円の中に含まれているという整理です。
TOB前の無配化自体は珍しくありません。配当を出してから買うと、買付者は「配当で目減りした会社」を満額で買うことになり、応募しない株主だけが配当を受け取れてしまう。そこで期末配当をゼロにし、その分を買付価格に乗せて全株主に均等に渡す、という調整が行われます。「減配=悪材料」と反射的に判断すると読み違える典型パターンです。
③ 1,901円は高いのか|プレミアムと算定レンジ
プレミアムの数字は開示にそのまま載っています。
| 基準(2026年9月16日まで) | 株価 | 1,901円のプレミアム |
|---|---|---|
| 前営業日終値 | 1,318円 | +44.23% |
| 過去1か月の終値平均 | 1,441円 | +31.92% |
| 過去3か月の終値平均 | 1,486円 | +27.93% |
| 過去6か月の終値平均 | 1,283円 | +48.17% |
ここで目を留めたいのは、前日終値1,318円が3か月平均1,486円を下回っていることです。公表直前にかけて株価は下がっていた。だから「前日比44%」という数字が大きく出ます。直近1〜3か月の平均に対しては28〜32%で、日本のMBO・完全子会社化案件としては標準的な水準です。プレミアムは必ず「何に対して」を確認するのが基本動作になります。
第三者算定機関のレンジも両サイドぶん開示されています。
| 算定機関 | 手法 | 1株あたり株式価値 |
|---|---|---|
| みずほ証券(対象会社側) | 市場株価基準法 | 1,283円〜1,486円 |
| みずほ証券(対象会社側) | 類似企業比較法 | 545円〜1,040円 |
| みずほ証券(対象会社側) | DCF法 | 1,181円〜2,019円 |
| デロイト トーマツ(買付者側) | 市場株価法 | 1,283円〜1,486円 |
| デロイト トーマツ(買付者側) | DCF法 | 1,315円〜1,992円 |
1,901円は、両社のDCFレンジの上限に近い位置にあります(対象会社側1,181〜2,019円、買付者側1,315〜1,992円)。一方で類似企業比較法では545〜1,040円と、市場株価の半分以下の評価しか出ていません。同業と比べれば割高だが、この会社の将来キャッシュフローから見れば上限近くまで出している、という構図です。
価格交渉の経緯も記載されており、ここが読みどころです。
| 日付 | 提示 | 価格 |
|---|---|---|
| 2026年8月17日 | 買付者の意向表明書 | 1,740円 |
| 8月24日 | 再提案①(対象会社・特別委員会の要請を受け) | 1,825円 |
| 9月2日 | 再提案②(2度目の要請を受け) | 1,900円 |
| 9月9日 | 3度目の要請への回答 | 据え置き |
| 9月15日 | 再提案③(株価推移を踏まえた再要請を受け) | 1,901円 |
| 9月16日 | 対象会社・特別委員会が応諾 | 1,901円で決着 |
特別委員会は4回の要請を重ね、1,740円から161円引き上げさせています。ただし最後の上乗せは1,900円→1,901円のわずか1円。買付者側が「ここが上限」と示したラインを、形式的に1円だけ動かして合意した形です。交渉が実質的に終わっていたことがうかがえます。
④ 本件最大の論点|下限が「3分の2」ではない
TOB開示で価格の次に見るべきは買付予定数の下限です。完全子会社化を目的とするTOBでは、下限を「議決権の3分の2」に置くのが定石になっています。残った少数株主を締め出すスクイーズアウト(株式併合)に、株主総会の特別決議=3分の2の賛成が必要だからです。
ところが本件の下限は618,700株で、これは議決権の過半数(50.27%)にすぎません。
買付者の説明はこうです。6977の過去3年の定時株主総会における議決権行使比率は平均57.08%、最大でも60.09%。実際に総会に出てくる議決権がその程度なら、発行済の3分の2を持っていなくても「出席議決権の3分の2」は取れる可能性が高い。さらに2026年7月1日に大量保有報告書を提出した新規の大株主2名(5.02%・5.40%)が議決権を行使すると保守的に仮定したうえで試算し、589,100株あれば十分実現可能と見積もった。そのうえで確実性を高めるため過半数の618,700株を下限にした、と。
つまり本件は「成立確度を上げるために下限を下げた」設計です。TOB自体は通りやすくなる一方、成立後に上場廃止までもつれる余地を残している。応募せず株を持ち続けた場合に、いつ・いくらで現金化されるかが読みにくくなるのはこの構造が理由です。
⑤ 誰が売ると決めているのか|応募契約と7月の大量保有
すでに応募が確定している株主も開示されています。
| 株主 | 立場 | 保有株数 | 保有割合 |
|---|---|---|---|
| 木村準 氏 | 代表取締役社長(筆頭株主) | 106,500株 | 8.61% |
| 今井芳範 氏 | 社外取締役(第8位株主) | 40,163株 | 3.25% |
| 合計 | 応募契約締結済み | 146,663株 | 11.85% |
この2名は保有株の全部を応募する契約を9月17日付で締結済み。ただし脱出口も用意されていて、公開買付期間中に1,901円を10%以上上回る対抗提案(法的拘束力があり、資力の裏付けが合理的に示されたもの)が出て、取締役会が賛同を撤回した場合などには、対抗提案に応募できる条項が入っています。
もうひとつ気になるのが、④でも触れた2026年7月1日に大量保有報告書を提出した2名です。62,100株(5.02%)と66,800株(5.40%)で合わせて10.42%。TOB公表の2か月半前に、それまで表に出ていなかった株主が同日付でまとまった株数を届け出ている。買付者もこの2名の議決権行使方針を「過去の行使比率からは推測できない」として、わざわざ保守的な前提を置いて下限を計算しています。④の「3分の2に届かないリスク」がどこから来ているかを考えると、ここは押さえておきたい事実です。
⑥ TOB開示を読むときのチェックリスト
6977のケースを一般化すると、TOBの適時開示で最初に確認すべき項目は次の5つに集約できます。
| 確認項目 | 見るポイント | 6977の場合 |
|---|---|---|
| 買付価格とプレミアム | 前日終値だけでなく1〜6か月平均に対する水準も見る | 前日+44.23%/3か月平均+27.93% |
| 買付予定数の下限 | 3分の2か過半数か。低いほど成立しやすいが非公開化は不確実になる | 過半数(50.27%)=やや不確実 |
| 算定レンジとの位置 | DCFレンジの上限寄りか下限寄りか | 上限寄り(1,181〜2,019円に対し1,901円) |
| 応募契約の有無 | 経営陣・大株主が売ると決めているか、対抗提案の余地があるか | 社長ら11.85%が締結済み/10%超の対抗提案は解除可 |
| 配当の取扱い | TOB前の無配化は価格への織り込みかどうかを本文で確認 | 期末15円を価格に織り込み済みと明記 |
⑦ まとめ
この記事のポイント
- フェローテック(6890)が日本抵抗器製作所(6977)に1株1,901円でTOB。2026年9月18日〜11月5日、成立すれば上場廃止。
- 期末配当15円→0円は業績悪化ではなく、買付価格1,901円に配当分が織り込まれているため。TOB成立が条件。
- プレミアムは前日比+44.23%だが、3か月平均比では+27.93%。公表前に株価が下がっていた点は割り引いて見る。
- 下限が3分の2ではなく過半数。買付者自身が「スクイーズアウトが承認されない可能性は否定できない」と開示している。
- 社長ら11.85%が応募契約済み。一方で7月に新規大株主2名(計10.42%)が大量保有報告書を提出している。
TOBは「プレミアムが何%か」だけで語られがちですが、実際の損益を左右するのは成立するかどうかとその後どう現金化されるかです。下限の設定と応募契約の中身は、そのどちらにも直結します。この2つを本文から拾う習慣をつけておくと、次に別の案件が出たときにも同じ物差しが使えます。
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この記事について
最終更新日:2026年9月18日/初稿公開日:2026年9月18日
参照元:日本抵抗器製作所「株式会社フェローテックによる当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」(2026年9月17日、TDnet)、同社「令和8年12月期の期末配当予想の修正(無配)に関するお知らせ」(2026年9月17日、TDnet)。本文中の数値・日付はすべて当該開示資料の記載に基づいています。
筆者は35歳メーカーシステムエンジニアで投資歴7年の「まもる」。NISA満額(月30万円)を継続中で、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)と楽天・高配当株式・米国ファンド(楽天SCHD)の2銘柄で長期投資を実践しています。本記事で取り上げた個別銘柄は保有していません。誤りに気づいた方はお問い合わせフォームからご連絡ください。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買・応募を勧誘するものではありません。TOBへの応募・不応募の判断、および税務上の取扱いについては、ご自身が利用する証券会社の案内および開示資料の原文をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。投資は元本割れのリスクがあります。







