今週の決算情報 #018|DOE格上げと中計・サイバー攻撃の明暗(2026年7月13-17日)

2026年7月20日更新

この号の見どころ|自分が見るべき銘柄

配当のルールそのものを格上げした企業を探したい人 → モリト(9837・DOE4→5%引上げ+累進配当導入)・IGポート(3791・DOE導入)・コジマ(7513・配当性向40%目標を新設)

大幅増配・連続増配を狙いたい人 → サカタのタネ(1377・6期連続増配+自社株買い)・クリエイトSDHD(3148・年93円へ+15円)・サイゼリヤ(7581・35円へ増配)

業績の上振れ・サプライズを確かめたい人 → マニー(7730・上方修正)・日本国土開発(1887・上方修正+増配)・クラウドワークス(3900・上方修正の中身に注意)

新中期経営計画・中計の明暗を見たい人 → タマホーム(1419・タマステップ2031策定)・モリト(9837・ACTION 1000)・日本製鋼所(5631・JGP2028更新)・IKホールディングス(2722・中計取り下げ)

ガバナンス・特損を警戒したい人 → SHIFT(3697・特損計上)・IKホールディングス(2722・中計取下げ+特損)・トーシンHD(9444・減損+管財人体制)・unbanked(8746・第三者委員会)・センコーGHD(9069・分配可能額超過)

連載「今週の決算情報」第18回は、2026年7月13日(月)〜7月17日(金)の5営業日を対象に、TDnet(東京証券取引所 適時開示情報閲覧サービス)へ提出された1,754件の開示を、「株主還元・業績サプライズ・中期経営計画」の3軸で整理します。今週の主役は、モリトが打ち出したDOE基準の4→5%引き上げと累進配当の導入。単発の増配ではなく「配るルール」そのものを一段引き上げる開示が、前号までのTAKARA&CO・三陽商会・モリタHDに続いて連鎖しました。一方で、サイバー攻撃による情報漏洩や決算発表の延期、中期経営計画の取り下げといった暗いニュースも重なり、還元強化と経営リスクの明暗がはっきり分かれた週でもありました。数値はすべて決算短信および適時開示PDF本文から事実ベースで引用し、伸び率は編集部で検算しています。

今週の全体像

今週のTDnet開示は5日間で1,754件。3月期本決算のラッシュは完全に終息し、開示の主役は5月期・8月期・11月期決算企業の本決算や四半期決算と、それに伴う配当・還元方針の見直しへ移りました。カテゴリ別で最も多いのは事務的開示を含む「その他」(月次売上速報・剰余金処分・総会関連など)で、投資判断に直結するのは決算短信・業績予想修正・配当予想・中期経営計画・自社株買いです。提出のヤマは週央(7/15)で、この日だけで572件が集中しました。

カテゴリ件数今週の傾向
その他814件月次売上速報・剰余金処分・自己株処分・総会関連・有報提出など事務的開示が大半
決算短信494件5月期本決算(サカタのタネ・タマホーム・クリエイトSDHD)と8月期3Q(コジマ・サイゼリヤ・マニー)が中心
自社株買い299件取得状況の報告と消却が中心。新規の取得枠決議はサカタのタネ・モリト・ウイングアークなど
業績予想修正67件マニー・日本国土開発・クラウドワークスが上方修正。SHIFTは段階利益を下方修正
配当予想62件モリト(DOE引上げ+累進)・IGポート(DOE導入)・コジマ(性向40%)など「方針の格上げ」が目立つ
中期経営計画17件タマホーム「タマステップ2031」・モリト「ACTION 1000」策定、日本製鋼所「JGP2028」更新、IKは取り下げ
株式分割1件今週は分割開示が1件のみと低調

※ 件数はTDnet適時開示のカテゴリ分類(本連載の集計基準)に基づく速報値。提出日別では7/13=297件、7/14=409件、7/15=572件、7/16=169件、7/17=307件で、合計1,754件です。「その他」には総会関連・月次速報など投資判断に直結しない事務的開示が多く含まれます。

株主還元の強化 ─ 「配るルール」を一段引き上げる開示が続く

前号(第17回)ではTAKARA&COがDOE7.5%以上を導入し、その前は三陽商会(DOE4→5%)、モリタHD(DOE3.5%へ)と、「配当の土台となるルールそのものを引き上げる」開示が週をまたいで続いてきました。今週はその流れの本命として、東証プライムのモリトがDOE基準の引き上げ・累進配当の導入・新中期経営計画・自社株買いを同時に打ち出す踏み込んだ還元策を発表しました。

9837 モリト|DOE5%への引上げ+累進配当+自社株買いの三重還元

面ファスナーやアパレル向け副資材、自動車内装部材を手がけるモリトが、利益配分の基本方針を見直しました。従来の「DOE4.0%を基準」から「DOE5.0%を基準」へ引き上げたうえで、新たに累進配当(原則として減配せず、維持または増配を続ける方針)を導入。あわせて第9次中期経営計画「ACTION 1000」で最終年度(2031年11月期)のDOE目標を6.0%と明示し、さらに30万株・6億円を上限とする自己株式の取得も同時に決議しました。同日発表の2026年11月期中間決算は増収増益で、年間配当予想は70円→72円としています。

指標変更前・前年変更後・当年変化
配当方針(DOE基準)4.0%5.0%引上げ+累進導入
売上高(中間)258億円330億円+28.1%
営業利益(中間)15億68百万円20億58百万円+31.2%
年間配当(予想)70.00円72.00円+2.9%

初中級者向けの読み方:DOE(株主資本配当率)は「自己資本の何%を配当に回すか」という指標で、利益がぶれても配当水準を安定させやすいのが特徴です。モリトはこの基準を4%→5%へ引き上げたうえで、累進配当(原則減配しない)まで加えました。中間の純利益は前年に企業結合の会計処理が確定した反動で見かけ上マイナスとなりましたが、売上・営業利益はいずれも二桁増で本業は好調です。DOE引上げ・累進導入・中計・自社株買いを一度に打ち出した「三重の還元」は、東証のPBR改善要請を背景にした資本政策の本気度として観察に値します。

チャンスのタネ:DOE基準の会社は「自己資本がどう積み上がるか」で配当の絶対額が決まります。モリトはDOEを5%に上げ、2031年度に6%を目標に置いた。累進配当を組み合わせたことで、利益が伸びれば配当も増え、下がっても維持される設計です。連載で追ってきたモリタ→三陽商会→TAKARA&COに続く「DOE格上げ」の連鎖に、今週モリトとIGポートが加わりました。中計「ACTION 1000」の進捗と実際の配当がルール通りに積み上がるかを、次の本決算で確かめたい存在です。

1377 サカタのタネ|6期連続増配+50億円の自社株買い

野菜・花の種子で世界大手のサカタのタネが、2026年5月期の本決算とあわせて期末配当の増額と自己株式の取得を発表しました。当期の親会社株主に帰属する当期純利益が業績予想を上回ったことから、期末配当を予想の40円から50円へ10円増額。中間35円とあわせた年間配当は前期の75円から85円へ増え、これで6期連続の増配となります。さらに100万株・50億円を上限とする自己株式の取得も同時に決議し、増配と自社株買いの二重の還元を打ち出しました。

指標(2026年5月期・連結)前期当期伸び率
売上高929億20百万円1,042億80百万円+12.2%
経常利益123億11百万円142億78百万円+16.0%
親会社株主に帰属する当期純利益97億11百万円121億63百万円+25.2%
年間配当75.00円85.00円+13.3%(6期連続増配)

初中級者向けの読み方:サカタのタネは株主資本配当率(DOE)2.5%を当面の目安に置く安定還元型で、当期はその水準を達成しました。ここで注目したいのは、増配の理由が「業績予想を上回ったから」という点。業績連動で素直に配当を積み増し、そのうえで自社株買いも重ねている。翌2027年5月期は反動で純利益が減る予想(会社計画)ですが、6期連続増配という実績と、増配・自社株買いを同時に出す姿勢は、還元方針の一貫性として読み取れます。

チャンスのタネ:増配と自社株買いを同時に出す企業は、還元の「厚み」と「本気度」の両方を示しています。サカタのタネは種子という景気変動に比較的強い事業を背景に、6期連続で配当を積み上げてきました。翌期の会社予想が減益であるだけに、次に確かめたいのは「減益局面でも配当をどう扱うか」。安定還元型の企業が業績の谷でどう振る舞うかは、長期保有の判断材料として観察対象になります。

そのほかの増配・配当方針の格上げ(一覧)

コード・企業内容
3791 IGポートアニメ・出版のエンタメ企業。作品のヒット次第で業績が年ごとに大きくぶれるため、配当性向25%目安からDOE2.75%目安へ変更(2027年5月期期末配当から適用)。安定配当を目指す狙い。当期は減益で配当8.5円だが、翌期は13円への増配を予想
7513 コジマ家電量販大手(ビックカメラ傘下)。配当方針に「配当性向40%」の定量目標を新設し、2026年8月期の期末配当を24円→28円へ増額。3Q累計は営業利益+34.2%と好調で、増益と方針格上げが同時進行
3148 クリエイトSDHD神奈川地盤のドラッグストア大手。2026年5月期は増収増益(純利益+8.3%)。期末配当を45円→48円へ増額し、年間配当は前期78円→93円へ+15円。継続的・安定的な増配方針を掲げる
7581 サイゼリヤ低価格イタリアンの外食大手。2026年8月期3Q累計は売上+17.5%・営業利益+25.6%と好調で、年間配当を30円→35円へ増配。国内・アジアともに客数が伸び、本業連動の素直な増配
補足:同じ「増配」でも、モリト・IGポートのようにDOEなどの配当ルール自体を組み替えるものと、サイゼリヤ・サカタのタネのように業績の伸びに連動して素直に増やすものがあります。前者は利益がぶれても配当の予見性が高まりやすく、後者は業績が落ちれば配当も細りやすい。「金額がいくら増えたか」だけでなく「どんなルールで配っているか」を見ると、来期以降の配当が読みやすくなります。

業績サプライズ ─ 上方修正の「中身」を見分ける

今週は業績予想の上方修正が相次ぎましたが、上振れの源泉は企業ごとに異なります。本業の数量が伸びたのか、為替の追い風なのか、それとも費用の先送りなのか。同じ「上方修正」でも中身によって持続性が大きく変わるため、そこを切り分けて読むことが大切です。

7730 マニー|中国の再販好調+円安で通期を上方修正

手術用縫合針や歯科・眼科用医療器具を手がける医療機器メーカーのマニーが、2026年8月期の通期連結業績予想を上方修正しました。中国におけるダイヤバー(歯科用切削器具)の再販売が当初想定を上回って推移し、円安も追い風となったためです。売上高はわずかな増額にとどまる一方、製品ミックスの改善と為替差益で経常利益は前回予想比+13.4%と大きく上振れます。ただし第4四半期に高根沢工場の閉鎖に伴う一時費用(特別損失)を見込む点には留意が必要です。

2026年8月期 通期予想前回予想今回修正修正率
売上高328億円329億円+0.3%
営業利益92億円97億円+5.4%
経常利益89億50百万円101億50百万円+13.4%
当期純利益(前期比)46億43百万円68億円+46.5%

初中級者向けの読み方:マニーの上方修正は、売上の増額(+0.3%)に対して経常利益の増額(+13.4%)がずっと大きいのが特徴です。これは「値引きせず、利益率の高い製品が多く売れた(製品ミックス改善)」ことと「円安で為替差益が乗った」ことの両方が効いているため。医療機器という景気に左右されにくい事業で、しかも利益率が改善しているのは中身の良い上方修正といえます。ただし為替の押し上げ分は円高に戻れば逆回転する点と、第4四半期の工場閉鎖費用が最終利益を一部削る点は、割り引いて見ておきたいところです。

チャンスのタネ:自己資本比率が9割を超える無借金経営で、医療という安定需要を持つマニーは、為替を除いた実力ベースの利益率がどこまで定着するかが焦点です。中国のダイヤバー再販が一過性か構造的な回復かは、次の四半期で確かめたいポイント。工場再編という一時費用を消化したあと、来期に利益体質がどう整うかも合わせて監視リストに入れておきたい銘柄です。

1887 日本国土開発|大型工事の採算改善で純利益4倍、増配も実施

土木・建築の中堅ゼネコン、日本国土開発が2026年5月期の本決算を発表し、通期の連結業績予想を大きく上回って着地しました。建築事業で大型案件の受注と手持ち工事が順調に進み、好採算の大型工事が採算面を押し上げたためです。売上高はほぼ横ばいながら、親会社株主に帰属する当期純利益は前期の13億32百万円から54億50百万円へ約4倍に拡大。あわせて期末配当を予想の13円から15円へ増額し、年間配当は前期22円→25円としました。

指標(2026年5月期・連結)前期実績当期実績伸び率
売上高1,233億49百万円1,352億07百万円+9.6%
営業利益23億18百万円71億50百万円+208.5%
親会社株主に帰属する当期純利益13億32百万円54億50百万円+309.2%
年間配当22.00円25.00円+13.6%

初中級者向けの読み方:建設会社の決算は「受注した工事の採算」で利益が大きく動きます。日本国土開発は売上が+9.6%と穏やかな伸びなのに対し、営業利益は3倍、純利益は約4倍に膨らみました。これは好採算の大型工事が利益を押し上げたためで、前期の利益水準が低かったことも伸び率を大きく見せています。なお、この決算には補助金収入(特別利益)10億54百万円と、それを相殺する固定資産圧縮損(特別損失)10億54百万円が含まれますが、両者は同額で最終損益への影響は中立です。数字の派手さより、大型工事の採算がどれだけ続くかを見るのが本筋です。

チャンスのタネ:ゼネコンの利益は工事の進捗で年ごとにぶれやすく、今期の急伸がそのまま続くとは限りません。次に確かめたいのは、翌期以降も好採算の大型案件を積み上げられるか、そして手持ち工事(受注残)の質。建設業は人手不足と資材高というコスト逆風のなかで採算を守れるかが問われており、増配とあわせて「採算の持続力」を点検したい銘柄です。
補足:クラウドワークス(3900)の上方修正は「中身」に注意。クラウドソーシング大手のクラウドワークスは2026年9月期の営業利益予想を「△10億円〜0円」から「0円〜3億円」へ引き上げました。ただし理由は本業の伸びではなく、コンサルタント採用投資やマーケティング投資の実行時期を来期以降へ後ろ倒ししたことによる費用減です。売上高予想は据え置きで、利益の上振れは「使う予定だったお金を使わなかった」結果。上方修正でも、増収を伴わない費用先送り型は実力の改善とは性格が異なる、という典型例として押さえておきたい事例です。

中期経営計画 ─ 「策定・更新・取り下げ」で分かれる明暗

今週の中期経営計画は17件。連載では中計を「新規策定・上方修正・取り下げ・公表延期」の類型で追い、Casaの下方修正とケーズHDの上方修正の対比を軸に「立てた計画をどう扱うか」で企業の信頼性が読める、という見立てを重ねてきました。今週は野心的な新中計の策定がある一方、前提の崩れで中計を取り下げる企業もあり、明暗がはっきり分かれました。

コード・企業中計名・区分・内容
1419 タマホーム「タマステップ2031」(策定)。2027年5月期を初年度とする5カ年計画。最終年度に売上高3,100億円・営業利益160億円・ROE25%を目標。当期は減益だったが翌期は純利益+229.8%のV字回復(会社予想)を見込み、計画の初年度から大きな挽回を掲げる
9837 モリト「ACTION 1000」(策定)。2027〜2031年11月期の5カ年。2031年11月期に連結売上高1,000億円・営業利益60億円・ROE12%・DOE6%を目標。DOE引上げ・累進配当・自社株買いと一体で、成長と還元を連動させた(株主還元欄で詳述)
5631 日本製鋼所「JGP2028」(アップデート)。2025年3月期〜2029年3月期の中計を、折り返し地点で個別事業戦略まで含めて更新するローリング型のアップデート。半導体製造装置・産業機械が柱
2722 IKホールディングス中計の取り下げ。2028年5月期を最終年度とする中計を、韓国コスメ国内展開という成長戦略の前提が崩れたことで取り下げ。「グループ経営改革会議」を設置し新計画を策定中(警戒欄も参照)
補足:中計は「立てて終わり」ではなく、進捗に応じて数値を見直す(ローリング方式)のが実務です。日本製鋼所のように折り返しで更新する企業もあれば、IKホールディングスのように前提が崩れて取り下げる企業もある。派手な数値目標そのものより、その計画を最後までやり切れるか、途中でどう修正するかを追うのが、連載が続けてきた中計の読み方です。

自社株買い ─ 新規の取得枠決議が目立った週

今週の自社株買い関連は299件。取得状況の報告や消却が中心なのは例年どおりですが、今週は新規の取得枠を決議する企業が複数出ました。枠を発表しただけの「計画段階」と、取得を終えて消却まで進めた「還元の最終段階」では完遂度が異なります。時価総額の大きいプライム主力・著名企業を中心に、還元がどの段階まで進んだかで整理します。

コード・企業内容(還元の段階)
1377 サカタのタネ100万株・50億円を上限とする取得枠を新規決議(発行済の2.36%)。増配と同時の二重還元
4432 ウイングアーク1st120万株・30億円を上限に取得枠を新規決議(発行済の3.45%)。AI・自治体市場の成長に対し株価が過小評価との認識を明記
9837 モリト30万株・6億円を上限に取得枠を新規決議(発行済の1.2%)。DOE引上げ・累進配当・中計とセットの三重還元
7513 コジマ配当性向40%目標の新設・期末増配とあわせて取得枠を決議。還元強化を複数の手段で同時に実施
7085 カーブスHD立会外買付取引(ToSTNeT-3)で自己株式を取得。3Q決算と同時に還元を実行段階まで進めた
9746 TKC取得の終了とあわせて自己株式の消却を実施。取得済みの株を消し発行済株式数を減らす、還元の最終段階

※ 取得枠を「決議」した段階と、取得を終え「消却」まで進めた段階では還元の完遂度が異なります。枠を発表しただけの企業より、消却まで実行する企業(今週はTKCなど)のほうが、株主還元の本気度は高いと読めます。上限株数・金額は各社の適時開示に基づく数値です。

連載の続報追跡

  • 「サイバー攻撃×決算」の連鎖 ─ 攻撃はなお続く:第16回でアスクル(攻撃で赤字転落)、第17回でアサヒGHD(本決算着地)と追ってきた「サイバー攻撃が決算を揺らす」テーマは、今週も継続しました。ファブリカHD(4193)は子会社のSMS送信システムが不正アクセスを受け、管理コンソールの情報が漏洩(総レコード9万5,412件、うち個人情報に該当し得る2万2,928件、不正送信280件)。アイダエンジニアリング(6118)はアジア拠点への不正アクセスで決算手続が遅れ、2027年3月期1Q決算発表を8月上旬から8月下旬へ延期(四半期末後45日超)しました。攻撃は業績数値だけでなく「決算開示のスケジュール」まで乱す、という新しい側面が見えた週です。
  • DOE格上げの連鎖 ─ モリタ→三陽商会→TAKARA&CO→モリト・IGポート:第15回のモリタHD(DOE3.5%へ)、第16回の三陽商会(DOE4→5%)、第17回のTAKARA&CO(DOE7.5%以上)に続き、今週はモリト(9837)がDOE4→5%引上げ+累進配当導入、IGポート(3791)がDOE2.75%導入と、「配当の土台となるルールを引き上げる」開示がさらに2社加わりました。東証のPBR改善要請を背景にした構造変化として、単発の増配ではなく方針の格上げが週をまたいで連鎖しています。
  • 中計「策定/更新/取り下げ」の明暗:ケーズHD(上方修正)とCasa(下方修正)の対比で確立した中計の類型に、今週は新たな事例が加わりました。タマホーム「タマステップ2031」・モリト「ACTION 1000」という野心的な新中計の策定がある一方、IKホールディングス(2722)は前提の崩れで中計を取り下げ。同じ週に「立てる企業」と「取り下げる企業」が並んだことで、計画をやり切れるかどうかで信頼性が読める、という連載の見立てが改めて浮き彫りになりました。
  • 9842 アークランズ:第16回で「会計疑義による1Q決算延期・特別調査委員会の設置」として警戒銘柄に挙げたホームセンター大手。今週の開示に新たな動きはなく、調査結果と影響額が固まるまで数字は判断保留が妥当です。引き続き監視し、続報が出れば次回以降で追跡します。

今週の警戒銘柄

コード・企業内容注意点
3697 SHIFTソフトウェア品質保証大手。子会社取得で売上予想は+6.7%へ上方修正した一方、持分法適用会社ライズ・コンサルの投資損失(営業外38億72百万円)とぐるなび株の評価損(特損3億02百万円)で、調整後経常利益は△20.0%・調整後純利益は△33.3%へ下方修正売上は伸びるのに利益は減る「増収・利益下方」。本業の成長と投資先の損失は分けて見る必要があり、出資先の減損が今後も出ないかを確認したい
2722 IKホールディングス韓国コスメ卸などを手がける。2028年5月期中計を取り下げ、2026年5月期は営業利益が前期比△53.9%。店舗の減損・関係会社株式評価損など特別損失も計上中計取り下げ+大幅減益+特損の三重苦。総代理店契約の変更・終了に伴う返品計上など、事業モデルの構造的課題が背景。新中計の中身が固まるまでは判断保留が妥当
9444 トーシンHD2026年4月期に固定資産の減損損失14億32百万円を特別損失に計上。開示は代表者ではなく管財人名で行われている管財人による運営体制下にあること自体がガバナンス上の重い注意信号。減損の一時性だけでなく、会社の再建プロセスそのものを慎重に見極める必要がある
8746 unbanked外部の特定人物が経営や重要な意思決定に実質的な影響力を持っていた可能性が報道等で指摘され、第三者特別調査委員会を設置。一部取締役からは事実確認への回答が得られていない経営の独立性・意思決定の健全性に関わるガバナンス問題。調査結果が出るまでは開示情報の信頼性を含めて判断を保留したい
9069 センコーGHD物流大手。2025年12月に会社法上の分配可能額を超えて自己株式を取得していたことが判明。第三者委員会の報告書を受け、再発防止策を決議(業績・財務への影響はなしと説明)還元策そのものが会社法に抵触した事例。数字への影響は限定的でも、資本政策の管理体制に穴があった点は内部統制上の注意信号として観察したい

まとめ ─ 今週の3つの学び

学び1:還元は「金額」より「ルール」。モリトのDOE4→5%引上げ+累進配当導入は、モリタ→三陽商会→TAKARA&COに続く「配るルールの格上げ」。単発の増配より、配当の土台を組み替える開示のほうが来期以降の予見性を高めます。IGポートのDOE導入もこの流れです。

学び2:上方修正は「中身」で持続性が変わる。マニーは製品ミックス改善と為替、日本国土開発は大型工事の採算改善による実力の上振れ。一方クラウドワークスは費用の後ろ倒しによるもので、増収を伴いません。同じ上方修正でも、伸びの源泉が実力か・為替か・費用先送りかを切り分けることが大切です。

学び3:中計とガバナンスに「明暗」が同居した週。タマホーム・モリトの野心的な新中計の裏で、IKホールディングスは中計を取り下げ、サイバー攻撃(ファブリカHD・アイダ)や第三者委員会(unbanked・センコーGHD)の開示も相次ぎました。還元強化の明るいニュースと経営リスクの暗いニュースは、常に同じ週に並びます。

来週(7/20週)の注目テーマ

来週は、3月期企業の第1四半期決算のプレビュー局面が本格化します。3月期の1Q本決算は7月下旬から8月上旬にかけてがヤマで、来週はその前哨戦として月次売上速報やプレアナウンス、通期予想の小刻みな修正が増える見込みです。あわせて、今週延期されたアイダエンジニアリング(6118)の1Q決算日程やファブリカHD(4193)の調査続報、中計を取り下げたIKホールディングス(2722)の新計画の行方、そして引き続き動きのなかったアークランズ(9842)の特別調査委員会の続報を、定点で追います。「配るルールの格上げ」と「経営リスクの開示」の両面が読めるタイミングです。

用語ミニ辞典(今回の初出)
累進配当:原則として減配せず、配当を「維持」または「増配」で続けることを約束する配当方針。業績が一時的に落ちても配当を下げにくくなるため、長期保有の投資家にとって配当の予見性が高まる。モリトがDOE引上げと同時に導入した。
DOE(株主資本配当率):自己資本の何%を配当に回すかを示す指標。利益に連動する配当性向と違い、利益がぶれても配当水準を安定させやすい。モリト5%、IGポート2.75%のように、各社が目安を設定する。
ローリング方式(中期経営計画):数年の中計を固定せず、毎年の進捗や環境変化に応じて数値目標や計画期間を見直す運用方法。日本製鋼所の「JGP2028アップデート」が典型。柔軟な半面、目標が形骸化していないかの点検も要る。

この記事について

最終更新日:2026年7月20日/連載「今週の決算情報」第18回(対象期間:2026年7月13日〜7月17日)

参照元:TDnet(東京証券取引所 適時開示情報閲覧サービス)2026年7月13日〜17日提出の決算短信494件・自社株買い299件・業績予想修正67件・配当予想62件・中期経営計画17件ほか合計1,754件/各企業の決算短信・適時開示PDF(提出日:2026年7月13日〜17日)。業績数値・配当・中期経営計画等は決算短信および適時開示本文より引用し、伸び率は編集部にて検算しています。本記事公開時点の最新情報を基に作成。

運営者:まもる(ITエンジニア/プロジェクトマネージャー・歴12年)。米国インデックス(eMAXIS Slim 米国株式S&P500)と楽天・高配当株式・米国ファンド(楽天SCHD)で資産形成中で、日本株の個別銘柄は保有していません。誤りに気づいた方はお問い合わせフォームからご連絡ください。

本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買や投資判断を推奨・勧誘するものではありません。投資は元本割れのリスクがあります。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。